IFSMA便りNO.12

IFSMA(国際船長協会連盟)総会報告
(社)日本船長協会 副会長 小島 茂

IFSMA第36回年次総会は6月17日、18日フィリピン、マニラ市イントロムロス(城壁で囲まれた地区)にあるAMOSUP本部会議室にて開催された。
参加は16カ国、アメリカ、英国、オランダ、ノルウェー、スウェーデン、ドイツ、ブラジル、インド、ベルギー、フランス、オーストラリア、フィリピン、ブルガリア、マレーシア、フェロー諸島(デンマーク自治領)、日本、各国船長協会代表者総勢55名、ちょうど南アフリカで開催されていた「サッカーワールドカップ大会」のようであった。
日本からは森本会長、赤塚副会長、小島が出席した。
森本会長は「日本の海上気象サービスと航行安全」についてパワーポイントを使用して講演を行った。
講演のあと日本近海の状況が良く分かったとの好評を得、昨年度船長協会が作成したDVDを希望国代表に配布した。
総会に先立ち、フィリピン船員組合(AMOSUP)組合長Capt. Ocaの代理で長男Mr.Conrado F. OcaがIFSMA総会をマニラで開催することに対し歓迎の辞。
次にIFSMA会長Capt. Christer LindvallよりAMOSUPの協力に感謝すると共に、「総会が実りあるものになるよう」挨拶があった。

プレゼンテーションを行う日本船長協会森本会長

〈総会内容について〉

6月17日(木)
1.Capt. R. Macdonald事務局長より下記報告された。
1)役員選挙については、会長、会長代理、副会長とも対立候補はなく現会長Capt.Christer Lindvall(スウェーデン)が再選された。
また赤塚副会長も会長代理権のある会長代理に再選された。
いずれも任期4年である。続いて、
2)Deepwater Horizonの事故についてアメリカ、メキシコ湾のOIL RIG“Deepwater Horizon”事故について亡くなられた作業員に哀悼の意を表し、事故に関連して今後作業船の乗組員のより一層の安全確保、健康の維持を願う。
3)多発する海賊行為による犠牲者及びソマリアで海賊に殺害されたパキスタン船長に対し哀悼をささげる。
4)チリ地震、津波の被害について
地震により大きな被害を受けたチリの船長協会に対し、メッセージ及びお見舞い金を送った。
2.レクチャー発表
6月17日(木)
1)若者の海へのチャレンジに対しての援助等( スウェーデンMr. Fredrik Larsson)
2)船長と刑事罰( 英国 Capt. R. Macdonald)
3)IMO、STCW条約の見直し、訓練、マンニング、休息等(インド Capt. S. V. Subhdar)
4)船内アスベストの問題(オランダ Mr. Marcel van den Broek)
6月18日(午前)
5)海賊問題( 米国 Mr. Robert Hayward)
6)海難と保険について(フィリピン Mr. Andy Malpass)
7)日本近海、海上気象サービスと航行安全(日本 森本会長)
船長協会作成したDVD「日本近海の気象、海象と日本の主要港湾の特徴」の一部分を抜粋、パワーポイント作成。台風の進路と避航、荒天時の航海について、また日本気象庁の業務と提供情報について紹介をした。

総会が開催されたAMOSUP本部ビル

6月18日(午後)
3.IFSMA総会の声明
各国代表者により事務局の素案をもとに声明文を作成した。(要約)
1)Deep Horizon
油層の拡大にともなう環境災害を、早急に食い止めるべく対応をとること要望する。
また救助船の船長はじめ乗組員の十分な安全と健康維持確保を願う。
長時間勤務と強臭及びガスによる病人が出ているとの情報も得ている。
事故の原因の追究とオフショアーのオペレーションの能力、深海での技術に問題が無かったのかきわめて重要視する。
IMOに対し緊急対応プランの備え、オフショアー施設での就労、マンニング、資格、訓練、技量について早急に基準を設けるよう要請する。
2)Hours of Rest
IMOは当直者の休息時間について継続的に審議しているが、我々は疲労が多くの事故の要因になっていること重要視する。
今後もヒューマンエレメントを継続検討課題とすること要望する。
今回のIMO、STCW条約締約国会議(6月21日―25日、マニラで開催)に向けてIFSMAは加盟国が現在の規則を改正し、疲労を削減するよう訴える。
IFSMAは現行の規定、すなわちSTCW条約第Ⅷ章「当直に関する基準」のA-Ⅷ/Ⅰ節「任務への適合」の中の「最短休息時間として、7日間に70時間、24時間につき10時間を付与する」を改悪するような提案は断固拒否するほか過労を招き、安全が守られない虞のある提案を受け入れることは出来ない。
3)Piracy
IFSMAのメンバーは世界の海賊の増大する脅威、特にソマリア沖の海賊行為について強く遺憾の意を表する。
海賊行為について各国が現在の国際法に基づいたその国の国内法で処罰(裁判)するよう申し入れる。(各国の刑法制定を支持する)
海賊行為を処罰するための法を制定するにあたり、典型的な行為を規定することを推奨する。(実際に海賊行為の現場を押さえるだけでなく、船に銃、砲、弾薬、はしごを積んで航行している現場を押さえた場合も海賊行為に含める。)
IFSMAは、国連安全保障理事会のなかに海賊を罰する法律を策定する決議案に賛同し協力していく。
IFSMAは、海賊行為の根絶に向けての検討会議には積極的に参加する。
特に非政府組織に訴える会議の場では他団体、機構と連携をとり継続的に協力していく。
また次のことに対し深い懸念を持っている。
最近、アメリカ政府が「海賊による人質、船舶の解放に身代金を払うことに民事、刑事の罰則を課す」とすること。
IFSMAはいかなる状況であれ、船員を武装し、あるいは武装したガードマンを乗船させることについて、改めて反対である事を確認する。
IFSMAは全ての船員、家族、友人その他の人たちが“ E n d Piracy Now”の嘆願をインターネットアドレス“www.endpiracypetition.org”宛てに送り各国政府が海賊を根治するために直ちに行動することを要請する。
4)Victims of any Act of Piracy
IFSMAはパキスタンの船長が海賊行為により殺害されたことを重大視している。
全ての政府および船社は犠牲者の家族、また被害を受けた船員に対しフルサポートすることを要請する。
経済的な助けおよび精神面のケアー、カウンセリングを行なう等、面倒を見るべきと考える。
5)Recruitment
IFSMAは海運界がこれからも継続的に若い、能力を持った船員の確保が必要であることを認識する。
また彼らをしっかり守り育てていかなければならない。
新人募集の際の方法についても見直しが必要である。
船上での生活の質の積極的向上はこれからの船員の採用、確保に当たって十分に考慮していかなければならない。
6)Asbestos on Board Ships
IFSMAは船上で船員がまだまだアスベストの危険に晒されていることを重要視する。
2002年7月1日以前に建造された船の危険性の存在に加え2002年1月1日以降、キールで建造された船でもアスベストが使われていることが見つかっている。
またSOLASで2011年1月1日以降は完全にアスベストを船舶用品、備品の材料に使用することを禁止している。
乗組員はどの機器、設備にアスベストが使われているのかわからないため、政府機関に船員が危険を避けられるよう適切な講習を設けること要請する。
総会風景

4.その他
1)6月17日 夕、AMOSUP主催の晩餐会がフィリピン船長協会協力で、マニラヨットクラブで開催された。
世界各国の船長が一同に会し、和やかな雰囲気のなかフィリピン料理を堪能した。
2)6月19日 MAAP(The Maritime Academy of Asia and the Pacific)の卒業式が行なわれた。
マニラ港からフェリーで2時間、バターン半島突端に位置する。
IFSMAも式に招待され、15名が参列、141名の卒業生の式典に花を添えた。
炎天下での軍隊式の行進後、一人一人に終了証書が学長から手渡された。
最後に家族の多数見守る中、帽子を宙に投げ、各人の顔は晴れやかであった。
卒業後は日本の船社を含め夫々乗船していく。
彼らの将来に期待する。
3)次回のIFSMA総会は来年5月カナダ Halifaxで開催予定。但しIMOのスケジューが決まり次第、最終決定とする。




LastUpDate: 2024-Apr-25