IFSMA便りNO.14

(社)日本船長協会事務局

秋の理事会

IFSMAの秋の理事会は東京で行なわれた。
日本船長協会がその創立60周年記念にあわせてIFSMAの理事会メンバーを招待したものである。
IFSMAの会長やその他の役員達は創立60周年記念行事に出席し、また会長は祝賀会で祝辞も述べてくれた。
理事会はその翌日の11月5日に海事センタービルの会議室で開催された。
出席したのは会長であるスウェーデンのリンドバル船長、以下副会長であるドイツのウィッテグ船長、フランスのドンブレヴァル船長、オランダのマルセル船長、アルゼンチンのカストロ船長、事務局長のマクドナルド船長、事務局次長のオーエン船長それに事務局員であるホーレット女史である。
事務局員はいずれも英国人である。
ノルウェーの副会長は残念ながらドタキャンとなった。
フランスのドンブレヴァル船長は10日ほど前に韓国でVLCCを下船したところで、一旦フランスに戻り、とんぼ返りで東京に来たと言う。
こうした現場の船長を副会長としてもち会議にも積極的に参加してくれることはIFSMAの強みである。
会議は日本船長協会の森本会長の歓迎の挨拶で始まり、出席者の確認や議題の採択などいつもの手順で進んだ。
まずリンドバル会長は議事に先立ち、先に行なわれた海賊撲滅に関する国連への請願書提出は船主団体や船員団体、海事団体などの関係者との連携で当初の目標であった50万筆を大幅に上回る約94万筆に達し、9月23日のワールドマリタイムデーにIMO事務局長に提出された。
そしてこれらの請願書は英国政府がスポンサーとなり、国連の安全保障理事会に送られていると報告した。
事務局からはとりわけ日本船長協会は650筆の署名を集め、IFSMA加盟国の中でも際立って多いと賞賛された。
嬉しいことであった。
請願書に署名をして下さった会員諸兄を始め多くの方々に感謝すると共に、ここは日本船長協会事務局の労を多としたい。

蛇田小学校校舎風景 寳教頭先生挨拶

事務局活動報告

事務局長の報告では過去6ヶ月のIFSMAの活動について詳細な報告があった。
IMOの会議出席報告が主となるが、救命艇訓練中の事故防止について紹介しておく。
ブラジル政府は今年5月、救命艇降下訓練中に事故で船員2名が死亡、2名が重傷を負った重大事故の報告を行なったとの事で、依然として有効な対策が取られていない現状が問題視されている。
これについてはIMOでInternational Lifeboat Groupを中心に議論されているが、主たる目的である救命艇のリリース・フックの信頼性・安定性の確保について有効な手段が見つからない。
また救命艇降下訓練そのものの見直しも一部では提案されている。
いずれにしても船長・船員は言うに及ばず製造業者、船社、官憲など関係者の連携と協力が必要であり、それと同時に訓練に当たってはFPDs(Fall Preventer Devices)を是非とも使用するべきであると勧告した。


海賊対策について

今回の理事会で最も大きな議題はこの海賊対策である。
これについは理事会に先立ってノルウェーのハーヴェ船長から下記の提案がなされた。
すなわちソマリア海賊の跋扈する海域について、
“Until the situation is redeemed all transit through the area should be closed for traffic. Only ships that are bound for ports in the area should be allowed to pass through and then only in convoys protected by Naval ships. The Seafarers on such ships should give their consent to sail with the ship in that area or be given permission to leave at the last port before entering such an area”.
と提案している。
これに対して折から同海域を航行中であったフランスのドンブレヴァル船長からは、全面的に賛成する旨の打電があったところである。
同船長からはあらためて理事会の場で、この海域を航行することがいかに危険で乗組員にストレスを与えるかが臨場感を持って説明された。
海賊問題は先のマニラにおける総会での最重要事項であり、具体策は理事会で検討することが要請されていた。
理事会ではこうした状況を分析したうえで、IFSMAとしていかに実効のある手段を取れるかに議論の焦点があった。
リンドバル会長はスウェーデン船員は、労使で合意された海域にあっては乗組員は希望すれば下船することが可能となっていると説明した。
これに対し事務局次長のオーエン船長は、IMB(国際海事局)のレポートによれば海賊の脅威はソマリア海域に止まらず南シナ海、インドネシア、バングラディシュ、ナイジェリアそしてブラジル沖と広く存在するがこれらの海域についても考慮する必要があると発言した。
ドイツのウィッテグ船長は海賊の撲滅は歴史的に見て常に海賊の基地を叩くことが最も有効である。
そのためにはソマリア近隣諸国の政府の協力は欠かせない。
ソマリア海賊の爲に大きな影響を受けていると思われる国の一つにエジプトが挙げられる。
スエズ運河の通航料は大きく落ち込むであろう。
エジプト政府に働きかけることは有効ではないかと指摘し、ソマリア海域のボイコット宣言はそれなりにインパクトがあるのではないかと発言した。
また11月末にはドイツのハンブルグで過去400年間で初の海賊裁判が行なわれる。
容疑者10名は今年4月にソマリア沖でドイツの会社の所有コンテナ船を乗っ取ったとされる。
当初はケニアがEUとの協定により自国内で裁判を行う予定だったが、今年、ケニアが財政的な支援が終わることを理由に協定を中断したので、同船の旗国であるドイツで裁判が行なわれるとの事であった。
容疑者には最高15年の禁固刑が科せられる可能性があるとのことである。
事務局長のマクドナルド船長はIFSMAは先に会長から報告があったように国連宛の請願書提出など考えられる限りの手を打っている。
ここでボイコットを打ち出すのはIFSMAとしての“credibility”を失うことになりわせぬかと懸念を表明した。
日本船長協会はノルウェーの心情は良く理解できるし、今は行動の時であることも承知している。
しかしボイコットの宣言は実効性に大いに疑問があるし、なにより海賊撲滅に向けて緊密に連携し協力していかねばならないもっとも重要なパートナーである船主・荷主との信頼関係を傷つける恐れがあると発言した。
アルゼンチンのカストロ船長は船主は就航海域の状況を乗組員に十分説明し、また乗組員の意思を尊重すべきであると述べた。
その後も審議は続いたが、理事会としてはノルウェーの提案を支持する雰囲気ではなかった。
会長は極めて重要な問題であるし、提案者のノルウェーが欠席していることもあって、次回の理事会で再度審議し総会で結論を出したいと述べ了承された。


IFSMA会員の責任保険について

これは船員、とりわけ船長が海洋汚染関連の事故等で沿岸国により犯罪者扱いされるケースが増えてきたことにより、ここ数年にわたって議論されてきた問題である。
船長が事故などで取調べを受け、さらには起訴されるような場合に備えて、保険を設定し船長に法律的な助言、訴追された場合の費用、賠償責任などの費用を弁済しようとするものである。
事務局長は最近ロンドンにおける海事社会におけるヒューマン・リレーションと人材に関するコンファレンスにおいて講師として招かれ、IFSMAが検討しているこの保険制度を紹介したところ、極めて好意的な反響があった。
多くの船主は事故の場合、船長に対して必要な支援をするとしているが、2,3の船主はもし船長がこの種の保険に加入するのであれば財政的支援の用意があると表明した
とのことである。またコンファレンス終了後、タンザニアの船長が事務局長にアプローチし、IFSMAに個人会員として加入のうえ、この保険に加入したいと言ってきたとのことである。
アフリカ人の船長が乗る船の多くは事故の際、船主から必要な支援が得られないケー
スが多いようである。
従来より日本船長協会はこのような保険について必ずしも積極的に関わってきたわけではないが、会員が必要と感じるのであればさらに紹介したい。
理事会では2社からの提案を比較検討した結果、ドイツのZAM社と本格的な詰めを行なうこととなった。
基本的な保険料は500米ドル(約42,000円)/年で保険金額は500,000米ドル(約42,000,000円)である。

日本船長協会の自主分離通航方式

日本沿岸の自主分離通航方式の概要と10月に開催された日本航海学会海上交通工学研究会で発表された矢吹東京海洋大学教授他による「日本船長協会自主設定分離通航方式の認知度と評価」を資料として提出して、経緯などを説明した。理事会はこの通航方式をIMOのもとに強制化することに極めて積極的であったが、日本船長協会としてはまだまだ国内的に詰めなければならぬ問題も多々あるので、別の機会に日本国内におけるその後の進捗状況などをあらためて報告をし、また必要であればIFSMAの協力を求めることとした。

IFSMAのメンバーシップ

6月マニラで行なわれたIMOのSTCW条約改正のための加盟国会議で、IFSMAの役員達が積極的に会議に出席していた各国の船長協会に加盟を働きかけた結果、シンガポール、トルコ、韓国、ヴェトナムから加盟条件などについて照会を受けている。
しかし各国の船長協会も厳しい財政状況にあるので簡単に加入するわけには行かないようであるが、引続き説得を続けることを合意した。
またニュージランドは残念ながら当分は加盟を見送るとのことである。
個人会員の加盟については、以前からある議論、すなわち船長協会の存在する国の個人会員は本来その協会を通してメンバーとなるべきではないかとの問題提起が新しく副会長となったオランダからなされた。
これはIFSMA創立のころ、船長協会が組織されていない国々もあり、また船長協会があっても何らかの理由でそれに所属していない船長もいるので、こうした船長達に門戸を開いているためであり、個人会員であることはIFSMAの情報など直接入手できるなどのメリットもあるので、これが現在でも160余名の個人会員が存在する理由である。
引続き個人会員制度は堅持することが確認された。

次回理事会及び総会

春の理事会は2011年4月にフロリダのタンパで開催する。
また2011年の総会は6月9日―10日にカナダの船長協会の招待によりハリファックスで開催されることが決まった。

(文責 赤塚宏一)


LastUpDate: 2024-Apr-10