Hill Harmony号事件判決では、中国のCOSCOが所有する同船について、再定期傭船者である川崎汽船の指示によるバンクーバー・四日市間の航海と、再々定期傭船者である東海商船の指示によるバンクーバー・塩釜間の航海が問題となった。上記各傭船者は船長に対し、北寄りのgreat circle route(大圏航路)を指示したものの、船長は南寄りのrhumb line route(航程線航路)を取ったため、定期傭船者は、時間と燃料が余分にかかったとして、その分を傭船料から控除した。争点は、定期傭船契約上、航路の選択は、商業的な船舶の使用(employment)として傭船者の権限か、船舶の操船(navigation)の問題として船長・船主の権限か、という点である。前者となると、傭船料の控除が認められ、後者となると、その控除は認められないこととなる。ロンドン仲裁では、前者とされたが、裁判所の第1審及び第2審では、後者とされたが、貴族院は、前者を採用した。
講演では、同一の事件において裁判所間で結論の分かれた理由や、上記貴族院判決後の最近の同種の事案に触れながら、船長と傭船者の権限関係を考察する。(田中)
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