このConference は2000年に始まり、昨年が第10回である。
その他の地域、すなわちインド及び欧州地域でも同様なConferenceが毎年行われている。
このConferenceには約350名の参加者があった。
地元フィリッピンのマンニング関係者が多くを占めていると思われるが、北欧、特にノールウェー、スウェーデン、デンマーク、そしてイギリスからの参加も目立った。
アジアではインド、シンガポールも多かったが、韓国や中国、そして日本人は殆ど見かけなかった。
例年、日本のマンニング関係者や大手船社の船員問題担当者が出席し、時には講演を行なうものと理解していただけに少々寂しかった。
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Conference の議長はTeekay Marine Servicesの社長であるジョン・アダムスで、同氏の司会によって行なわれた。(写真2)
基調講演はフィリッピン船主協会会長のカルロス・サリーナスで最新のテクニックを駆使した動画を背景にフィリッピンのマンニング業界のこれまでの歩みと今後の動向について述べた。
過去20数年余で急成長したフィリッピンのマンニング業界は今日約35万人の船員を全世界に供給しているという。
海運及び船員に関わる国際法の四つの柱、すなわちIMO のSOLAS条約、MARPOL条約、STCW 条約そしてILO の海事労働条約がその実効性を強めるに従い、
従来にも増してHigh QualityでよくTrainingされた船員が必要であり、フィリッピンはその要求に応えられる体制にあることを強調した。
要するに今後のマンニング業界のキーワードは高品質でよく訓練された船員ということである。
このキーワードはその後の多くのプレゼンでも飛び交った。
その後中国やインドのマンニング業界の状況が報告されたが、いずれも船員教育機関の毎年の卒業生が1万人とか昨年度の中国の船員養成機関への入学者が44,310人などと言う数字を聞くと圧倒される。
日本が海洋基本法に基づき、トン数標準税制を導入し、10年で1.5倍、約5000人の船員を確保しようとする時、一桁も二桁も違う数字が出てくるのは空恐ろしい。
このConferenceでは2013年には約4万人の船舶職員が不足するという英国の著名な海運関係調査機関Drewry のレポートを追認するような形となったが、フィリッピン、中国、インド三ヶ国の凄まじい養成計画を見ると不足どころか、やがて船員のダンピングすら起こるのではないかと心配される。
こうしたフィリッピン、中国そしてインドの大規模な船員養成が船員のコスト節減競争ではなく、質の向上競争となるよう切に願っている。
船員コストについては香港に本社のある
Anglo-Eastern Ship Management LTD の執行役員から下記のような数字が示された。
日本人船員のデータはないが、今や比較する意味もないということなのだろうか。
恐らくオーストラリア船員とあまり変わらないと思われるが、いずれにしても我々日本人船員の生きる道はQuality にしかありえない。
COSTS? In case of PANAMAX BULK CARRIER
PHILLIPINES: 1
CHINA: 0.9
INDIA: 1.15
UKRAINE: 1.16
INDONESIA: 0.83
LATVIA: 1.3
BRAZIL: 2.3
AUSTRALIA: 6.2
船員のcriminalisation 問題については、あらためてインド代表から報告があったが、そこにHebei Spirit 号の元船長、Capt. Chawlaが登場して会場が沸いた。(写真3)
Hebei Spirit 号の事故の顛末については、本誌前号に当会の松田常務理事がその詳細を報告しているが、Capt Chawla は18ヶ月に及ぶ韓国での拘留の後に罰金刑を課され、昨年の6月にやっと釈放されたのである。
そしてこの罰金刑の結果、前科がつき各国のヴィザ取得も困難である旨が紹介された。
Capt Chawla は大きな拍手の中で講壇しスピーチをおこなった。
まず拘留中に受けた海事関係者の支援や激励、そして釈放に尽力してくれた関係者に深く謝意を表すると共に、18ヶ月の拘留がいかに辛いものか切々と語った。
そしてこうした苦しい経験を二度と世界の同僚にさせないために国際的な法律の枠組みを策定するように訴えた。
また海事関係者に謝意を表したものの海運界や国際的な船員社会の連帯感の欠如を指摘することも忘れなかった。
Capt. Chawla の登場は船員のCriminalisation問題に大きなインパクトを与えたことは間違いない。
願わくばこのインパクトがConference 参加者のみならず広く国際的な海事関係者にも広がることである。
2006年に採択され2011年末には発効が予定されるILO の海事労働条約については二人のスピーカーが触れたが、判りやすい解説であるものの、その後の質疑応答では船が拘留される事由やその手続きなどについての質問には答えられず失望させられた。
寄港国検査に関するガイドラインなどについてまでは咀嚼されていないのであろう。
会議場に至る通路には教材やシュミレーターなどの展示場が設けられ十数社が出品していた。(写真4)
地元の教材や訓練機関の呼び込みはさながら夜店のようでかしましい。
その熱気はフィリッピンの船員養成が大きな産業となっていることをうかがわせる。
いつからフィリッピンはこのような教育大国(?)になったのだろうか。
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