IFSMA便り NO.77

Ship Masters Facing Authority Misconduct at Foreign
Ports – Obligations, Liabilities and Legal Remedies
港湾関係官憲の職権濫用・不法行為の実態

(一社)日本船長協会 副会長 赤塚 宏一

 

はじめに

 本稿のタイトルは修士論文のタイトルである。これはヘルシンキの大学修士課程に在籍したフィンランド人のCapt. Juho Eskolaが執筆したもので、論文執筆の過程で現役船長達へのアンケート調査にIFSMAが協力したところから、大学に提出された修士論文がIFSMAに送られて来た。本稿ではこの論文を手がかりに官憲等の職権濫用・不法行為について考えてみたいと思った。
 ちょうどそのおり、正栄汽船の巨大コンテナ船 “Ever Given” がスエズ運河で座礁したとのニュースが入った。これをさっそく友人に話すと、間髪入れず「スエズ運河のパイロットが本船に‘たかる’ のに夢中になって操船がおろそかになったんだろ」と返ってきた。20世紀の船乗りにとっては、しごく真っ当な反応である。パイロットを始めとするスエズ運河の関係者によって船長・航海士がいかに不快な思いをしたかを述べるのが本稿の目的ではないので、これ以上触れないが、後述のMaritime Anti-Corruption Network(海事における腐敗撤廃ネットワーク、以下MACNと記す。)の調査でもこうした‘たかり’行為が最も多い場所の一つがスエズ運河とされている。
 今回の事故についての原因は何も明らかにされていないが、さすがに‘たかり’ が直接の原因ではないようである。外信では正副二人のパイロットの間で操舵について激しい口論があったようで、この間に本船は堤防に乗り上げたようである。
 しかし、その後のスエズ運河庁の本船に対する扱いを見ていると、これぞまさしくこの修士論文が扱う官憲の職権濫用・不法行為の国家版である。本船の安全性が確認され、堪航証明書が発給され、そして事故の原因究明のための必要な調査が終了すれば早急に出航を許可するのが、世界の物流の大動脈を預かる運河庁の責務であろう。本船に積載された2 万個に及ぶコンテナには生鮮食料もあれば一刻も早く届けなければならぬ医療器具や薬品もあったかも知れない。多くの生産現場で待たれた部品や原材料もあったであろう。そうした国際物流の鍵を握る運河庁が法外な賠償額を勝ち取るために本船を人質に取り、交渉を有利に進めるための道具とすることは全く許せない。同国の法廷も船主・保険者の本船釈放に関する訴えを全て却下した。これが職権濫用・不法行為の国家版と考える所以である。

国連腐敗防止条約及び国際的な腐敗防止に関する動向  

 公務員に係る贈収賄、公務員による財産の横領等腐敗に関する問題についてはグローバル化の一層の進展に伴い、持続的な発展や法の支配を危うくする要因として、もはや地域的な問題ではなく、全ての社会及び経済に影響を及ぼす国際的な現象となっていると理解されている。また、腐敗行為とその他の形態の犯罪(組織犯罪等)との結び付きも指摘されるようになり、効果的に腐敗行為を防止するためには国際協力を含め包括的かつ総合的な取組が必要であるとの認識が共有されるようになった。国連腐敗防止条約は正式には「腐敗の防止に関する国際連合条約」 “UnitedNations Convention against Corruption” と呼び、2003年に採択され、我が国も2017年に批准している。2017年現在の締約国は、182の国・地域となっている。
 もちろん港湾関係官憲による職権濫用・不法行為等は、規模の大小はともかく、この条約の定める不法行為に該当すると考えられるが、本稿はこうした国際法関連について書くのが目的ではないのでこの程度にしておく。
 当然海運界でもこうした腐敗行為の撲滅には取り組んでおり、IMOの国際海上交通簡易化条約(FAL条約)にも関連規定があるし、BIMCOの用船契約向けの腐敗行為防止条項もある。
 さらに海運業界における公正な取引の実現にむけ、腐敗排除・防止を目的とした活動を行なう前述のMACNという組織もある。2019年ヘルシンキにて行なわれたIFSMA総会においてこのM A C Nがプレゼンを行なった。筆者は機会があればこれを紹介したいと思っているが、今回はこの修士論文に的を絞りたい。

「港湾関係官憲の職権濫用・不法行為の実態」に関する修士論文  

 これはぺージ数116ぺージ、おおよそ25,000語に及ぶ論文である。論文の学問的価値については、筆者には判断しかねるし、アンケート調査で回答があったのは44通であり、これが量的に有意と考えられるのかどうかもわからない。しかし、この問題は海上にある会員諸兄にとっては起こりうる事柄かと思い紹介する次第である。
 本論文は大きく二つの問題を扱っており、その一つは通常の寄港にさいして港湾関係官憲による職権濫用・不法行為を扱い、他は“Misconducts in legal processes, issued fines, holding custody, sentence to jail” 「法的手続きにおける不当行為、罰金の支払い命令、身柄の拘束、刑務所への収監」として、M/V B Atlantic 号事件(2007年ヴェネズエラで麻薬密輸嫌疑を掛けられたウクライナ人の船長と二等航海士が9 年の禁固刑となった事件)、M/T Tasman Sprit (2003年パキスタン・カラチ沖で座礁、原油流出、ギリシャ人船長及び乗組員7 人、9 ヶ月拘禁)、M/VSea Watch 3 号事件(これは最近の事件であり、日本でも報道されたので、ご存じの会員諸兄もあると思うが、2019年6 月CarolaRackete船長(女性)は地中海において海上難民47名を救助し本船に収容したが、イタリア当局は難民の上陸を認めなかった。 しかしCapt Racketeは命令を無視してランペドウザ港に強引に入港した。着岸に際しイタリア水上警察のボートを転覆させ乗組員を危険に晒したとして、当局から10年の禁固と脅かされ裁判に付されたが、無罪となったもの)、そしてM/T Prestage 号事件にも触れている。Prestage 号の海難は広く海運関係者に知られており、筆者もこれについては、これまでも書いたので(会誌「船長」第133号 2016年3 月)詳細は省くが、2003年スペイン沖で重油輸送タンカーが荒天で折損し63,000トンの重油が流出し、ギリシャ人のマンゴウラス船長が逮捕されたものである。
 これらの事件については、論文の著者自身も認めるように極めて複雑な国際法と寄港国/沿岸国の国内法の絡みであってそれを解きほぐすにはほど遠く、この部分に関しては論文はLloyd’s Maritime Law Newsletter やLloyd’s Law Reports の引用が多いので本稿ではこれ以上は触れないこととするが、確かなことは、いずれの場合も船長・船員が司法当局により極めて不当な取り扱いを受けていることである。
 元日産のカルロス・ゴーンが論難するところの日本では99%の有罪率、弁護士の同席を認めない取り調べ、長期の拘留により自白を迫る人質司法等々、日本の司法制度にも問題があるであろうが、船長・船員が一旦麻薬密輸等の嫌疑を掛けられたり、環境汚染を惹起するような海難を起こした場合は、恐ろしいほどの不当な取り扱いが待っているのは確実だ。
 それでは、通常の入出港に関連してどんな問題が起きているのかみてみよう。


「港湾関係官憲の職権濫用・不法行為の実態」  

 ここでは主としてアンケート調査に応じたIFSMAのメンバーである現役船長の経験を列挙する。船長のレポート(『 』内)の次には論文著者による注の一部を記す。

 (1) 2018年12月 テネス港(アルジェリア) 貨物船
 『既に入港手続きが完了していたが、入国審査官が本船に再乗船し、乗組員の一人がインターポール(国際刑事警察機構)により手配されており「目撃されたら逮捕されることになっている」と船長に直接伝えた。500米ドルの保証金を直接彼に手渡さない限り、その乗組員は警察に拘束され、尋問を受けることになると宣言した。
 入国審査官は当該乗組員の犯罪歴やインターポールの逮捕命令に関する書類は一切提示しなかった。』
 本件については、乗組員がインターポールによって手配されているなどとは信じがたいが、無論否定する材料はない。また本船は入港したばかりであり、今後PSCの検査官も乗船するであろうし、また本船の船用金も全て申告済みであるので、今後どんな難癖や要求金額のつり上げがなされるかも分らない。まことに悪質な例である。どのように折り合ったのか報告はないが、何らかの金額は支払ったのであろう。

 (2) 2018年6 月 ピパバ港(インド) コンテナ船
 『税関職員は、乗組員の申告書と船用品の申告書に誤りがあったと主張した。
 現金かタバコを寄越すよう要求し、さもなければ罰金を科すと言ってきた。船長は正式な罰金支払命令書を代理店と本船に送るよう要請した。そのうえで正式なルートで支払うと伝えた。税関職員は最後まで船長を脅しながら下船した。命令書は発行されなかった。』
 本船船長は税関職員の要求は正当性が無いことを確信し、毅然とした態度にでたのであろうが、勇気の要る行動である。こうした事態には極力公式なルートで処理するように要請するのが良いと思われる。

 (3) 2008年11月 オンネ港(ナイジェリア) コンテナ船
 『乗船官吏は船長と機関長のパスポートを取り上げ、罰金を払うか刑務所に入るかとあたかもゲームを楽しむようにいたぶる。船長に対する嫌疑は医薬品の幾つかを麻薬として申告しなかったこと、また機関長に対しては補油に際し、漏洩油に備えて深い受け皿を用意しなかったとの理由である。』
 本船船長は役所に連行され、そこでパスポートを取り上げられ、いわゆる取り調べは6 時間から24時間ほど続いたという。機関長に対する嫌疑も到底正当化出来るような事実ではなく、言いがかりの類いである。本件について当局は最初$3000を要求していたが、最終的には96カートンのタバコ、18ボトルのウィスキーを差し出すことで決着した。本件については入国管理、税関及び港長が関わっていた。
 本件に関連し、船長、機関長はほとほと海上勤務に嫌気がさしたと述懐している。その意味で重大事件である。

 (4) 2020年7 月 ウンイェ港(トルコ) 貨物船
 『PSCの検査官は多数の欠陥を見つけ、拘留の理由としたが、300ユーロと何らかのプレゼントをくれれば別の報告書を書くだろうと言う。』
 PSC検査官の権限は強大なものとなってしまった。本来、乗組員及び船舶の安全性を担保する有効な手段であるはずのものが、一部の国・地域では船長・船員をいたぶり、強ねだ請る道具と化している。PSC検査官については後段でも触れる。本件では船長は検査官の指摘に対し、適宜応じ、検査官の要求する物品の幾つかを与えた。

 (5) 2015年 ラゴス港(ナイジェリア) オフショア建設船
 『ナイジェリアのラゴスで停泊中の本船に、NIMASA(ナイジェリア海事管理安全局)及び移民局、警察、PSCOが立ち入り検査に乗船した。
 そして現金を払わなければ船を拘留すると脅した。その間に当地の代理店が多少の現金を支払うことで話を付けた。
 他の役人たちは、船の食料を‘いつものように’ カットするよう要求してきた。船長はタバコでどうかと言ったが、税関職員は “現金がいい” と言った。
 船は3 時間後には出動出来たが、シェルの担当者は何も手を貸してくれなかった。こうした役人どもと対応しなければならないのは、常に船長なのだ。』
 船長の説明にあるように、職権濫用・不法行為は大掛かりで本船では抗しがたいものである。彼等は主に金銭的な補償を要求し、ついで本船の船用品や食料品から‘通常の’ 利益を得ることを要求する。最終的には、彼等の欲しいのは現金である。明らかに、多くの公的機関が権力濫用によって個人的な利益を求めている。
 賄賂を要求するのは一人ではないのだから、全ての不正を行っている組織を満足させるための費用は、かなりの額に上る。船長は、不正行為は当局によって事前に計画されたものであり、本船の活動に由来して発生したものではないと述べている。

 (6) 2018年8 月 上海港(中国) コンテナ船
 『2 ヶ月前に行なわれたPSC検査では問題なしとされた本船が今回同一当局により実施されたPSC検査で、本船のSMSに不備が見つかり、再認証が必要と指摘された。本来なら本船はさらに4 ヶ月間PSC検査を受ける必要はなかったはずである。この出来事は、米国が中国に対する貿易制裁を発表した週に起こった。2 ヶ月前の検査を実施した同一検査官は本船がIMO の “ブラックリスト” に載っていたことが検査の理由だと述べた。IMOのウェブサイトによると、本船は “ホワイトリスト” に掲載されている。本船は旗国であるUSCG に通報したが、USCG も本船に同意し、中国海事局とIMOに正式な抗議を行った。』
 本件は純粋に政治的な意図から行なわれたもので、当局の上層部の指示によるものと推察される。検査官自身は個人的な利益を追求することは無かったが、本船にとって交渉の余地は全く無かった。本船はいわゆるSMSの再認証が終わるまで同港に拘留された。

 (7) 2018年8 月 ジャカルタ港(インドネシア) コンテナ船
 『ちょっとした不備で巨額の罰金を要求する。理由は期限切れの薬をカートンボックスに入れて保管していたが、金庫や保税倉庫ではなく診療室にあったとことが違反とされ、また保税品リストに申告されたタバコの数量が実際と違うとして、30分以上にもわたってタバコを要求された。タバコのカートン数が違うのは既に港長が相当数取上げたからである。』
 船長によれば、期限切れの医薬品(麻薬成分を含む物あり)の保管や廃棄については、常に強ねだ請りのターゲットとなるという。

 (8) 2020年3 月 中国各港 コンテナ船
 『毎航海、中国各港の税関と入国管理局の職員は、タバコを強ねだ請るためにありもしない欠陥を申し立てる。そして事務処理の増大や余分な検査を行なわねばならぬとの口実で24~30カートンのマルボロタバコを要求する。彼等の欲しいのはマルボロのタバコで他の銘柄には見向きもしない。』

 (9) 2019年3 月 セント・ペテルスブルグ(ロシア)タンカー
 『医薬品の幾つかは麻薬として申告しなければならないと難癖を付ける。』
 この場合、船長は彼等の要請に従うこととし、なにがしかのいわゆるスーベニアで片が付いたという。麻薬か一般医薬品か否かは紛糾することが多いので、船長としては細心の注意を払わねばならない。

 (10) 日時不詳 ムルマンスク(ロシア) 貨物船
 『船用品リストの記載が不正確であるとして、大問題となった。』
 船用品リストの作成にあたっては、細心の注意を払っても、当然のことながら、100%正確な書類の作成は困難である。この点を突かれたが、具体的な被害は記載がない。

「港湾関係官憲の職権濫用・不法行為の実態」の分析  

 船長に対するアンケート調査はIFSMAを通して得られた回答が33、Nautical Instituteのスウェーデン・デンマーク支部を通して得た回答が11、合わせて44通の回答があった。
 船長の国籍はフィンランド(10人)、米国( 8人)、フランス( 4 人)などで他はチリー、デンマーク、オランダ、エストニア、ギリシャ、インド、ノルウェー、ルーマニア、ロシア、スウェーデンなどで日本からも2 人の船長が回答をしている。英国及びフィリッピン人の船長の回答が無かったのは残念である。船長としての経験年数は12年以上が31.8%を占めるが、1 ~ 3 年未満の船長も27.5%いる。船種はバルカーが36.4%、コンテナ船が25%、タンカーが13.6%である。その他は客船を始めとする各種の船舶である。
 外国当局による職権濫用・不法行為等を経験したことがあるかとの問いに81.8%がイエスと答えている。
 どのような種類の被害であったかについては下記グラフを示したい。

 当然と思われるが、金銭・物品の強要が最も多い。そして正当性を欠く罰金や違反切符の発給などである。
 こうした職権濫用・不法行為等を行なう当局の部署については、税関が73%と圧倒的に多い。ついで入国管理局の37.8%、同じくPSC検査官の37.8%、引き続いて、コースト・ガード、港長、警察等である。
(複数回答のため100%を超えている)
 地域や港については、統計はなく港名や地域を羅列している。たまたまその地域を航海し、こうした事態に遭遇した船長がアンケートに応え、港名や地域を挙げたものなのでもともと統計的な意味は少ないのであろう。それはともかく、圧倒的にアフリカ諸国が多く、次いでアラブ諸国、スエズ運河、ロシア(セント・ペテルスブルグ、ムルマンスク)などで、アジアではインド、インドネシア、中国などが挙げられている。
 当局が何を要求するかといえば、タバコ、金銭、食料、そしてアルコール飲料の順である。本船のペイントを要求された例もある。
 当局の職権濫用・不法行為等の引き金になる事柄は何かという質問に対し、船長は、本船入港前に当局内部で計画されたものと考えるのが一番多い。予め送られた船積み書類などにより、旗国や船主、乗組員の国籍、建造年次などから獲物を絞り込むと考えられているのだ。事前にターゲットとされていなくても、入港時に書類の不備やPSC関連の些細な問題点が見つかった場合には、これらを理由に強ねだ請りが拡大するとも述べている。またこうした職権濫用・不法行為等が多発する国は国家そのものが貧しく、贈収賄や私腹を肥やすなど腐敗が蔓延しており統治機構も機能しておらず、港湾当局だけの問題ではないので、改善は困難との悲観的な見方をする船長もいる。


「港湾関係官憲の職権濫用・不法行為」への対応  

 こうした事態に直面した場合、船長はどのように対応するのか。当局の要求に応じるか部分的に応じることが多いが、毅然として拒否する場合も結構ある。そしてその場合、外部の支援を求めるケースが殆どである。外部の支援とは代理店、傭船者、船社のDPA(陸上管理責任者)、そしてP&I クラブが挙げられている。こうした事件については、船社のDPAに報告する場合が最も多いが、同時に船舶代理店、当該港の上級官庁、旗国の大使館や領事館などが殆どである。
 これらの職権濫用・不法行為等を少しでも抑制する手段はあるのであろうか。こうした不祥事は乗船官吏に対する当局の監視が行き届かず、仮にこのような事態が発生しても処罰されるようなことは滅多にないことも理由の一つであろう。また船長達が懸念しているように当局が組織ぐるみで行なうことも十分に考えられる。
 こうした職権濫用・不法行為等に対する有効な手段として設立されたのがMACNで不祥事の匿名のオンライン報告システムである。これはこの分野における重要な進歩であり、改善点であるが、現在のところ、民間の組織であり法的な裏付けのある公的機関では無い。このため、MACN は、法的権限のある調査を行い、必要な場合には適切な処分を下すような支援機関を必要としている。
 このような不正行為を防ぐためには、税関、入国管理局、PSC などの職員に対する監督を強化することが必要である。職員の監督や内部統制を徹底させる一つの方法は、被害者である船長が独立した第三者(機関)に直接報告出来るようなシステムを提供することである。船長が当局の職員に脅されたり、強要されたり、何らかの不正行為を受けたと感じた場合、船長はその職員や事例を特定し第三者(機関)に報告し、適切な措置を要請出来るようなシステムである。
 通報を受けた第三者(機関)は、不正行為を行った職員を特定し、適切な調査を行い、必要であれば、定められた法令に基づいて処分を行なう結果を出すことができるとするが、このような第三者(機関)の有効性は港湾当局等の全ての職員に周知され理解されているかに掛かっている。このようなシステムが有効に稼働すれば、それは職権濫用・不法行為等に対する事前警告として作用し、結果的に不祥事の減少につながるであろう。
 個人的な利益を得るために行なう不正行為への誘惑は調査を受け、罰せられる可能性があることを認識している場合には、相当低くなるであろう。
 第三者(機関)を監察者として関与させることの重要性は当局のどのレベルが不正行為に関与しているか推定出来ないためである。組織ぐるみで事前に計画されたような場合はたとえ当局上層部へ通報ないし相談しても無意味だからである。
 第三者(機関)による監視が国際海事機関(IMO)などの国際機関によって組織されたらこうした職権濫用・不法行為等対策として極めて有効であろう。


おわりに

 港湾関係官憲等による職権濫用・不法行為等の全体像を明らかにするには、MACNなどの資料を詳細に調べる必要があろうが、本稿ではCapt. Juho Eskola の修士論文の一部を紹介するにとどめた。
 こうした問題は海上にある会員諸兄にとって不快かつ厄介な問題であろう。時には本論文にあるように、海上勤務そのものを忌避することにもなりかねない。
 この問題の解決あるいは減尽するには論文の著者が提案するように第三者(機関)の強化・有効活用であろうし、そのためにMACNが設立されたのであろうが、恐らく未だ‘道遠し’ であろう。
 入港して港湾関係官憲の職権濫用・不法行為等に直面した場合、船長としてどのように対応したらよいのであろうか。
 応接する船長の態度と行動が最も重要である。友好的でありながら、威厳と自信に満ち職業人としての誇りを感じさせるものでなければならない。そして当局の要請を理解し的確に応答する必要がある。また、対応に当たってはなるべく多くの関係者に立ち会わせることが肝要だ。一等航海士や、事務長が乗船していれば当然立ち会うであろうし、代理店員の同席も必要だ。明らかな職権濫用・不法行為等と思われるときは、船主や傭船者に連絡をとり、更には可能なら在外公館やP&Iの駐在員などにも連絡するのが良いだろう。
 官憲の利益供与の要求を安易に受け入れることは、贈賄罪が成立する要件を満たすことにもなりかねないと思われる。いずれにせよ船長はプロ中のプロとしての毅然たる態度が求められる。


参考資料

1 .Lloyd’s List 7 月8 日付 “Holding Ever Given as bargaining chip was an error”
2 .外務省 https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/shomei_6.html
3 .MACN https://macn.dk/


LastUpDate: 2021-Sep-30