IFSMA便りNO.2

(社)日本船長協会事務局

「理事会」

にわかに寒くなった日本を後にロンドンに降り立ったが、北緯52度に位置するだけあって気候は厳しい。
11月下旬だが日中の最高気温はすでに5度程度、小雨が多く早朝には雪も降り、車の屋根が真っ白になっていた。
日暮れも早く、会議を終えて外に出ればはや真っ暗である。
さて、本年度最初の理事会は11月24日、25日の2日間、IFSMAの本部のあるロンドンで開かれた。
本部はIMO(国際海事機関)から歩いて7-8分のThe Marine Society(写真)の中にある。
日本の海事センタービルのようなものである。
会議に参加したのは会長であるスウェーデンのリンドヴァル船長、そして副会長であるドイツ、ノールウェー、アメリカ、英国、フランス、日本そして事務局員である。
今回はドイツのヴィッテグ船長が准教授を務めるブレーメン工科大学航海学科の最終学年の学生が卒業前のフィールドワークの一環として理事会を傍聴した。
参加したのは女子学生4名を含む15名で、来年1月に卒業し、国家試験を経てそれぞれ就職することとなる。
理事会のティータイムに彼等と話す機会があったが、英語はもちろん応答も話しぶりも立派なものである(写真)。
彼等が航海士・船長を志したころはまだ海運もブ-ムと言うほどでもなく、ドイツの海運界も新人の教育訓練にそれほど熱心でなかったため、入学者も20名程度であったが、今年はドイツ政府や船主協会の積極的な働きかけもあり、入学者は100人を越えたという。
IFSMAの理事会が開催されるのは今年の3月以来であり、また最近の海事社会の多様な変化のため多くの議題が並んだが、ここではもっとも会員諸兄に興味があるとおもわれる海賊、STCW条約(船員の訓練及び資格証明並びに当直の基準に関する国際条約)改正、そして船員の懲罰問題につき、理事会の模様を報告したい(写真)。

The Marine Society ブレーメン工科大学航海学科の学生

 

1.海賊問題

これまでは海賊問題といえばマラッカ海峡の海賊であったが、最近のソマリア海賊の猖獗は単に海運に関わる問題ではなく、一国のライフラインにも関わる深刻なものである。
英国人2名が乗っているVLCC Sirius Star(318,000DWT)が乗っ取られ、乗組員の身代金が要求されているが、英国政府は身代金支払い交渉の可能性を否定している。
このため、二人が所属している英国船舶職員組合の代表でもある英国代表はIFSMAが早急に何らかの具体的なステップを取るように強く要請した。
議論の過程で取り上げられた対策の中には、船員の武装ないしは武装した警備員の配置、乗組員の増強、また乗組員の過分なセキュリティ責任を要求する現行のISPSコード(船舶保安国際コード)の見直しなどがあった。
審議の結果、理事会の翌日(11月26日)から開催されるIMOのMSC(海上安全委員会)の冒頭に特に発言を求め、大要下記のようなステーツメントを発表することとした。
もちろん船員の武装化は強く否定されている。
またこれをベースに国連の事務総長にもIFSMAの名前で手紙を書くことも合意された。
ここでは敢えて英文案のままにしておく。
IFSMA is most concerned with the rising incidents of piracy but wishes to state that it is not in favour of providing the seafarers with firearms.
A more defensive mechanism would be a convoy system escorted by naval vessels, provided the assembly point is in itself a safe area.
IFSMA also believes that in the interest of world trade as many nations as possible should, under a U.N. Mandate, provide military cover with naval vessels in the areas of piracy.
We would also encourage Flag States to issue safety policy recommendations which owners should encourage their officers to abide by.
Finally it is IFSMA’s view that the only long term solution to piracy is through the United Nations for an international drive to bring political stability to those countries that are harbouring pirates.

IFSMA理事会風景

 

2.STCW条約改正問題

(1) 天文航法
これについては、本誌の先号に詳しく説明し、また日本船長協会としては会員諸兄の意向に基づき、IFSMAの審議においても天文航法の履修を強制要件として残すとする立場を取った。
一方欧州勢はGPSのバックアップが完全でないことを問題点としてとらえ、ロランーCや欧州連合のガリレオ・システムあるいはロシアのGLONASSなどが十分に信頼出来るものとなれば、天文航法を勧告要件として、代わりに海難事故を減少させるために真に必要なヒューマン・リソース・マネージメント関連の科目を履修させるべきであるとの立場であった。
具体的には安全文化の形成や、或いはそれを阻害する要因、船員の疲労対策、多国籍乗組員の扱いなど社会科学的、あるいは心理学的アプローチを可能にするような今の時代にもっとも必要な学問を身に付けるべきであると考えている。
この議題も長い時間を取ったが、結論としては現行の強制要件について、もう少し旗国の裁量を認めるような方向で改正案を検討することとなった。
(2) 休息時間
現行の規定では、どの24時間においても少なくとも10時間の休息を与えること、この休息時間は2回に分けて与えることは可能だが、その内の一回は6時間以上でなければならないとしている。
しかしこの規定では休息時間の最低限度が規定されていない。
このため最低休息時間の定義が必要であるとして、ノールウェー政府は2時間を提案しようとしている。
これをIFSMAとして支持するか否かが討議された。
IFSMAとしては最低休息時間を定義する必要性は認識したが、具体的な時間についてはもう少し検討すべきとの意見があったものの、単に休息時間の定義を求めるだけではIMOにおいて審議されないのではないかとの意見もあり、とりあえず休息時間の最低を2時間とし、他の団体や政府の意見を聞くこととした。

3.船員の懲罰

海洋汚染や麻薬の密輸に関連し、船員、とりわけ船長が不当に逮捕され、長期にわたり拘留されるなどの事件が頻発している。
2002年にスペイン沖で起きたプレステージ号のマングラス船長がスペイン当局に逮捕され重罪刑務所に監禁・拘留された事件はそのいい例である。
こうした事件に対してIFSMAは常に船員の早期釈放に尽力してきたが、今回は隣国の韓国で起きたタンカー“Hebei Spirit”のインド人の船長及び一等航海士の問題である。
この海難については会員諸兄はご存知とおもうが、2007年12月韓国西海岸で錨泊中の本船にサムソン重工業所属のクレーン船(1,800トン)が接触し、漏油(10,000トン以上)事故が発生したものである。
この海難事故に対して韓国裁判所第一審は2008年6月に2名のインド人士官を無罪にしたが、検察は控訴し、その結果、昨年12月から拘留が長期に渡っており、P&Iの保証にも係らず、韓国政府が釈放を拒否し、パスポートを返却していない。
そして第二審では懲役刑の可能性があるなどとの噂もながれている。
ITFはインドの運輸労連からの要請をうけ、韓国に対し韓国製品のボイコットも含めた強硬手段を検討しているとの事で、IFSMAに対しても支持要請の打診があったものである。
韓国製品のボイコットなど効果の点からも実際的ではないと思われるが、ITFとしてもまずは12月の第二週にITF書記長の名前で抗議文を在英韓国大使に手交するとともに、韓国政府にも直接抗議文を送り届けるとの事であった。
IFSMAとしてはこれらの行動を支持するとともに、IMOの場で「船員の公正な取り扱いに関するガイドラインに関連し、韓国代表の見解を糺すなどの活動を行うこととした。
今回の理事会では、今後のIFSMAのあり方、将来の運営体制などについても意見が交わされたが、紙数の関係もあり、その詳細は次の機会にゆずりたい。


LastUpDate: 2021-Jun-23