IFSMA便り NO.82

「海技教育は進化したのか」

(一社)日本船長協会 理事 赤塚 宏一

 

はじめに

 英国・オランダ・スイスの船舶職員が加入する船舶職員組合 NautilusInternational の機関誌“TELEGRAPH” は今年から隔月刊行となった。 紙質も良くなり写真も鮮明となり、個々の記事も深みがましたように思われる。4 月末に届いた2022年3 月・4 月号は長引くパンデミックにより変革を余儀なくされた海技教育訓練機関は、また急速なデジタル化社会に向かう流れの中にあって、必要な進化をしつつあるのかという問題を多くの側面から検証しようとしている。今号ではこの“TELEGRAPH” の特集記事をベースに、参考資料に掲げる文書を加味して、海技教育の問題に触れてみたいと思う。海技教育の問題といってもこの“TELEGRAPH” が扱うのは主として英国における海技教育であり、また海技教育は基本的に職業教育であり、我が国の大学における商船教育とは異なるレベルと考えるべきである。後述の「学士号を取得出来るレベルへの進展」がそれをしめしている。この特集記事ではColledgeやSchoolなどが使われているので、ここでは海技教育訓練機関としておいた。また学生についてもApprenticeやCadetなどの言葉が使われているが、すべて訓練生とした。また海技教育の国際的な動向や日本の海技教育に触れるには筆者の力が及ばないので、そのあたりは含んで読んで戴きたいと思う。

The Maritime Skills Commission

 英国の運輸省とMaritime UK (英国の海事セクターの統括団体であり、またそれを代表する組織。英国の海事部門は、海運、港湾、海洋(レジャー、造船、技術、科学)及び海事ビジネス・サービスから構成されている。)は2020年にThe Maritime Skills Commission(海事スキル・コミッション 以後「コミッション」)を設立した。その目的は有能な人材が海事における諸セクター、すなわち海運・港湾、マリンレジャー、エンジニアリング、科学そしてその他のプロフェッショナルなサービスに従事するようパイプラインを構築することである。2020年7 月に運輸省が発表した使命書には次のように書かれている。

 1 .技術革新の影響を含め、各セクターの必要とされる技能を理解し、行動するための提言を行う
 2 .各セクターのいかなる部署においても深刻なスキル不足やスキルギャップに苦慮することがないようにする
 3 .各セクターが必要とする訓練制度と資格制度を持っていることを確認する
 4 .各セクターが必要とするトレーニングの提供を確実に実施する(学習者の関心を引き付け、コストを抑えるためのテクノロジーの使用を含む)
 5 .雇用主と各個人にキャリアパスと再トレーニングの選択肢に関する明確な情報を提供する
 6 .海事分野における人材のキャリアの効果的な向上を図り、雇用主は欠員が生じた場合質の高い人材を確保出来るようにする
 7 .海事教育訓練の輸出拡大そしてMaritime UKはコミッションと緊密に協力し、コミッションが作成した最新の労働市場情報を確実に反映する作業プログラムを作成し発表する。

 コミッションの議長にはセントラル・ランカシャー大学のグラハム・ボールドウィン副学長が海事大臣によって任命され、そのメンバーには英国海事社会諸分野における有力者が名を連ねているが、Nautilus Internationalの事務局長であるMark Dickinson もその一人である。
 具体的な活動としては、メンバーは定期的に会合を持ち情報の交換などを行なうほか、Webinarsの開催やPodcasts(注1 )の放送などを行なっている。もちろんニュースレターや各種のレポートも発表している。
 2021年6 月に発表されたレポート“Maritime Skills Commission – Seafarer Cadet Review Report – June 2021” は今後の海技教育の在り方について提言したもので、IFSMA便りに紹介すべきものと思い一旦は書きかけたものであるが、教育に関わる問題は時間を掛けて調べたいとも思い残しておいた。
 このレポートは下記のような提言を行なっている。その幾つかは1 年から5 年を目途に取り組むべきものとしているが、15年以上も掛けて長期的に取り組むものもある。
➢ STCW条約は国際的に受け入れることの出来る最低限の教育訓練水準であることを認識する必要がある。
➢ 船員としての最も基本的な技能を維持しつつ、多彩な技術の変革に対応しリーダーシップの養成を行なうよう教育訓練の内容を進化させねばならない。
➢ 学士号の取得を可能とする教育への進展
➢ 船舶職員教育は完全に公費で行なわれるべきで、学生は教育機関とその課程について自ら選ぶ権利を持つこと。
➢ 最新の電子機器やシミュレータなどを十分に活用し、学習と実習の質を向上させねばならない。
➢ 何時間学習したか、あるいは経験したかを重視するこれまでの伝統的な考え方を捨て、成果が上がったかどうかとの客観的目標管理に変える必要がある。
➢ 訓練生の海上実習制度の見直し

 コミッションによる上記のような勧告を受けて、Nautilus Internationalは関係する海事教育訓練機関や団体などをインタヴューし、“TELEGRAPH” で次のように状況を報告している。

何故近代化が必要なのか  

 Nautilus Internationalは、長年にわたり、あらゆる背景を持つ人々が質の高い海事教育訓練を受けられるようキャンペーンを展開し、すべての海事に関わる職業人がキャリアアップの機会を均等に得られるよう提唱してきた。
 これには、世界経済の脱炭素化を達成するための新しい技術や手法の訓練も含まれる。Nautilus Internationalはこの取り組みを強く支持し、教育訓練は環境保護目標を反映したものであるべきだと考えている。幸いなことには、すでに多くのことが達成され、海事教育訓練機関は明らかに新たな技術に投資し、パンデミックから学んだ教訓を新たに生じる問題に適用するであろう。
 商船訓練委員会(Merchant Navy Training Board)のディレクターであるキャサリン・ニールソンは、同委員会では海事教育訓練を近代化する必要性が強く認識されていると言う。
「英国には素晴しい教育訓練システムがあり、輝かしい伝統があるが、しかしそれを見直し改革し、将来に向けて適切なものにすることに無頓着だった」と彼女は言う。「技術の急速な変化に対応するために、私達はこの課題に取り組まなければ取り残される恐れがあると判断した。それは定期的に訓練内容を見直しそれが目的にかなっているのか、また企業や訓練生自身の声に耳を傾けること、そうすることによってこそ未来の船員を育むことのできる、本当に世界でもトップクラスの訓練プログラムを実施出来る」と言う。
 また彼女はいますぐ実行出来ること、実行すべきことに眼を向けなければならないが、それは訓練生が国際的な労働市場で競争出来る力・価値をもつことだと言う。そしてハード・スキルやソフト・スキルに加えてメタ・スキル(Meta Skills)に注目していると言う。このメタ・スキルとは自己の心の在り方や行動を管理する自己管理能力のようであるが一例として思考の柔軟性、コミュニケーション能力、クリティカル・シンキング(批判的思考)やチームワークを挙げている。
 訓練生がこれらを身につければ、その後は海運会社自体が彼等を訓練し、いかなる革新技術にも対応する能力を持った人材を確保出来るだろうと言う。

教育訓練コース(カリキュラム)の内容  

 海事教育訓練において「近代化」とは、正確には何を意味するのだろうか。
 例えば、自動化システムの運用や、アンモニアや水素といった新しい燃料の扱い方など、ユニークな課題や安全性への影響を伴うような新しい技術に重点を置いて、従来のスキルを部分的に置き換えたり補ったりすることもある。カリキュラムから従来の内容を削除して新しい学習を導入することは、常に議論の的となる。天文航法は、削除すべきか否かの大きな話題の一つである。六分儀はもはや船上での法的要件ではないのに、なぜ60時間も費やすのだろうか? 教育することは重要だが、重視すべきことではないだろう。 (注2 )

 カリキュラムが労働条件や新技術を反映する必要があることは認められようが、STCW条約によって要求される技能、いわゆるハード・スキルは法制との関係もあり、その調整には時間がかかり、またスキル自身も技術革新のスピードや今後ますます導入されるAIによる環境変化、さらに将来どの新燃料が一般的になるかという不確実性を考えると、実技訓練は将来的にも通用する基礎的あるいは汎用性のある技術で補うべきかもしれない。一方ソフト・スキルやメタ・スキルは法的な縛りも少なく、今後ますます必要とされる技能となることは間違いない。

教育・訓練期間  

 コミッションの勧告について教育訓練期間の関係者にインタヴューしたところ、多くの関係者は伝統的なカリキュラムについての懸念を表明した。すなわち誰であれ資格や資格証書の裏書きを得るためには一定の時間を教室で過ごさなければならないという事実である。関係者の多くは将来訓練生の能力は教室で過ごした時間ではなく、業務遂行能力で評価されるべきと考えている。それは訓練生は職業訓練を受けているわけで、その成果は実際に業務をこなせるかどうかが重要と考えるからである。
 そして、これはパンデミックにより多くの授業がオンラインとなり、新しい教育手法が必要となり講義の方法も変わってきたことと密接な関係がある。

教育の為の技術  

 コミッションは、教育機関が新しい教育技術やICT(情報通信技術)を活用して、将来性のあるトレーニングを行うことを推奨している。パンデミックにあってすべての教育機関は、新型ウィルス感染症に適応するために、オンライン講義などのツールを使用しなければならなかった。幸いにも多くの海技教育機関は、デジタル機器や学習アプリの開発を進め、海外の学生や、海上実習中で船舶に閉じ込められている学生が、旅行制限にもかかわらずコースを継続することができた。
 MLA(Marine Learning Alliance College:Partner College of University of Plymouth)は10年前から 中堅の海事関係者にオンライン学習サービスを提供しており、新型ウィルスの大流行にも先手を打って対応した。以前からオンライン学習や講義の録画などは勿論、学生からのフィードバックを受けて、いわゆる遠隔教育(Distance Learning)を設計・構築してきた。その中核であるTLP(Total Learning Package)は、Netflixのようなアクセシビリティの高いプラットフォームを利用して学生が勉学する環境を提供する。 これは学習管理システム(L e a r n i n gManagement System LMS)ともよばれるがTLPでは、そこに置かれている配布資料やビデオ資料を使って行なわれる講義や演習に自由に参加でき、またいわゆる自習あるいは非同時「オンデマンド型」の授業では再生や早送りや遅送りも可能である。TLPにはバックアップ用の参考書など、他の学習教材もすべて含まれている。TLPはメモリースティックに収めることができ、海上での通信の制限や接続性の悪さなど必ずしも通信環境が整備されているとは言えない問題をうまく回避している。
 MLAカレッジは世界中に学生がいるため、ライブ講義は行っていない。しかし、すべての教材が「デジタルファースト」のフォーマットで利用できるようになっているだけでなく、MLAカレッジでは、中核となる教授や講師によるチューターサポートを提供しており、さらに世界各地の各分野の専門家によるサポートも用意されており、特に学位論文の作成が必要な場合には、個々の学生の研究を評価し、支援することができる。担当教授は、「ハイテクに振り回されがちだが、このチューターサポートが学習のカギを握っている」と強調する。
 こうした遠隔教育は今後ますます重要となるだろうが、職業教育であることから、当然のことながら対面教育も含めた混合学習(Blended Learning)も重要で、そうした調整も行なわれている。

シミュレータによる教育の最新化  

 この特集記事のためにノーチラスが行った訪問やインタビューで明らかに目立ったのは、海技教育訓練施設やカレッジがシミュレータに莫大な投資を行っていることで、話を聞いたすべての機関が、この方向を目指していることである。
 リバプール・ジョン・ムーア大学(LJMU)では、例えば、360°の視野で構成された主ブリッジ・シミュレータと、独立したシミュレータとして、またはブリッジと接続して航海士や機関士を同時に訓練できるフルミッションの機関室シミュレータを含む5 つのブリッジからなる区画が設置されている。航海当直の訓練ではECDISが使用され、10個のステーションが設置されている。ECDISトレーニングの需要に応えるだけでなく、この施設は航海訓練のためのフルミッション・デスクトップ・シミュレーションをセットで提供している。
 しかし、将来どうなるかはまだ誰にもわらない。例えば、バーチャル・リアリティがいつかシミュレータに取って代わるかもしれないと示唆されているが、これを使用してチームワークや連携の訓練を行なうにはまだ多くの課題がある。

乗船実習  

 ここでは乗船実習とは社船実習を意味するのだが、コミッションは学生が乗船実習で有用な訓練そして教育を受けられるように支援するとともに、座学においてシミュレータ訓練を含む他の学習と適切に組み合わされ効果を上げるように、教育機関がもっと努力するよう勧告している。
「実際の乗船経験は何事にも替えがたいのは紛れもない事実だが、私たちが発見したのは、海上実習が実際には予想されるほど多くの経験を伴わない場合が多いということである。海上実習では訓練生は必ずしも知識を広げるような状況に置かれているわけではないが、シミュレータでは、予想されるあらゆる状況に直面し経験を積み、学んだことを実際に示す機会を与えることができるのである。いろんな局面を経験し、経験から得たものを示すことが出来る、この2 つの要素が重要なのである。」 この言葉は他の多くの海技教育訓練期間においても共感を得ている。
 学校関係者は乗船実習には少々懐疑的である。乗船実習が有効であるためにはもう少し具体的でなければならぬと感じている。乗船実習に対して学校側は直接働きかけることは難しく、受け入れる船舶側の状況も殆ど把握出来ないと不満を隠せない関係者もいる。また訓練生にはインターネットの使用も制限されていることが多く連絡も取りにくいともいう。
 英国ではスーパー・ヨットに就職を希望する訓練生も多く、またそれは英国船員にとって大きな成長分野でもあるのだが、大型船と同等の海技資格が必要であり、一方スーパー・ヨットが訓練生を乗せることは殆どなく、必要な乗船実習を行なうことは極めて困難という。

 なお、乗船実習の一部をシミュレータ訓練で代替する議論は1995年のSTCW条約の包括的改正の時から行なわれているが、これに関連する最近の動きについて以下の通り補足しておきたい。
 英国政府は2020年7 月1 日付のIMO事務局長宛ての出状で乗船実習の一部をシミュレータ訓練で代替することを通告している。これはI M Oのサーキュラー・レター STCW.2/Circ.92 で回章されている。すなわちSTCW条約の第9 条 「同等と認められる教育及び訓練の制度」に則りシミュレータ訓練を乗船実習と同等と認めているのである。もう少し詳しく言うと、STCW条約の規則II/ 1 及び付属書A-II/ 1 にある船内訓練に対して最大2 ヶ月までシミュレータ訓練で代替出来るとしている。
 即ち
 ・5 日間のフルミッションのブリッジ・シミュレータで15日間の乗船実習
 ・10日間のフルミッションのブリッジ・シミュレータで30日間の乗船実習
 ・20日間のフルミッションのブリッジ・シミュレータで60日間の乗船実習
を代替出来るとしている。勿論シミュレータの要件は細かく定められている。
 社船実習の出来る船舶の確保の難しさと社船実習による教育効果に懐疑的な見方も多い中、シミュレータの性能の向上とも相まってシミュレータによる乗船実習の一部代替措置は今後各国とも採用するであろう。
 IMOでは今年2 月に開催された第8 回人的因子訓練当直小委員会(HTW 8 )において乗船実習について通信作業部会(Correspondence Group:CG)を設置して審議することとなった(通信作業部会とは、各国担当者により電子メールで行われる作業グループ)。これはSTCW条約で要求される船内訓練(on board training) の質を保証し、実習の効果を上げるため、行動計画を作成し、強制要件ではないガイダンス案をつくることを目標としている。乗船実習の効果については上述のごとく懐疑的な見方もあり、これがIMOでも認識されているのである。小委員会では、乗船実習の取り扱いが国により違うことが議論され、また乗船実習の一部代替措置、シミュレータ、仮想現実と拡張現実(virtual/augmented reality)による教育訓練の可能性、さらに各国相互の協力なども議論されたという。CGではまず乗船実習に関して、各国が直面している問題点や課題について情報を集め、これらを整理し、問題点を明らかにすることから始めるという。CGの活動報告は次回の小委員会(HTW 9 )に提出される。

多様な人的資源の開発  

 英国においては海技者の将来に何ら不安は抱いていないようで、多くの海技教育訓練機関は多様な人的資源の発掘に精力を注いでいる。多くの海技教育訓練機関はまだ将来の目標を定めていない年頃の小学生に海や船に対する学習の機会を与え,興味を持ってもらういわゆるアウトリーチ・プログラムを開発し、実行している。
 また女性は大きな資源であり、各機関ともその募集に力をいれている。ある機関では今年の新入生の13%が女性であり、これは昨年と比較すると150%の増加だそうだが、もちろんこれに満足していない。そしてスーパー・ヨットの運航管理や船員管理に携わるグループと提携して、女性やマイノリティグループ、さらには経済的に困難な階層の子女などに奨学金を支給し、将来の船員を確保するとしている。

おわりに  

 長引くパンデミックは、わが国においても、大学を始めとする教育機関に大きな影響を及ぼしたが、もちろん海技教育訓練機関もその例外ではなく、それどころか実技の習得を要請されるだけに多くの苦労もあり、戸惑いもあるであろう。しかし、こうした困難に直面する過程において多くの工夫がなされたことと思う。パンデミックに立ち向かうという予想もされなかった局面において教育訓練に大きな挑戦と機会があることが明白になったのではないか。欧米の海事関係図書や雑誌等を見ていると根っからのデジタル世代として育った青年に対する教育訓練の提供方法の新しいやり方、シミュレータ訓練をベースに従来の規制の見直しやSTCW条約の根本的な見直し、さらには関連する補完的な技術で新たな解決策を見出す必要があることが示唆され、またそれらを実践し始めた例に接することがある。
 Nautical Institute の“Seaways” 50th Anniversary Supplement April 2022にクラウド・ベース・シミュレータ (Cloud-basedSimulator) の紹介記事があった。一部の教育訓練機関ではすでに実用化され教室に大きな変化をもたらしている。訓練プログラムとそのプログラムの使い方等はパソコンやタブレットさらにはスマホでも利用可能であり、このことは海技教育訓練機関がそれこそ何時でも何処へでも進出出来ることを示しているとある。筆者には今一つ具体的なイメージが湧かないが、これからはこうした遠隔教育と教室で行なわれる実技指導などとのいわゆる混合学習が行なわれるのであろうが、それを確立するにはまだ課題もあることであろうし、教育訓練機関の試行錯誤が必要かと思うが、生まれながらのデジタル世代には最も効率的な方法であろう。
 自動運航船(MASS)の開発は国内外で行なわれており、すでに実船実験も行なわれている。究極的な自律運航船はともかく、自動運航船といえども相当な期間はいわゆる陸上における遠隔操縦者(Remote Operators :RO)による運航となるのではないだろうか。この遠隔操縦者の資格や教育訓練は今後IMOなどの関係機関で議論されるのであろう。当然のことながら遠隔操縦者には相当の海技知識及び海上経験が要求されるであろうが、それとともにデジタル機器などを駆使するICT(情報通信技術)に精通した海技者であることが必須となるのではないだろうか。自動運航船の遠隔操縦はシミュレータによる航海当直訓練の実践版ではないかと想像するのだがどうだろう。

参考資料

1 .“TELEGRAPH” Mar/Apr 2022 Nautilus International
2 .“Maritime Skills Commission”
3 .“Seaways” April 2022 Nautical Institute

(注 1 )「 ipod」と「broadcast」が組み合わさった造語。インターネットを通じて配信された音声や動画をスマホやパソコンで視聴できるサービス。

(注2 ) (筆者注)2007年にIMOで天文航法が話題になったとき、ノルウェー船長協会は組合員にアンケート調査を行い、その結果天測が殆ど行なわれていない事実を踏まえ、IFSMAとして天文航法をSTCW条約の強制要件から外すよう求めるべきであると提案した。この提案は2008年にブレーメンで開催されたIFSMA総会で審議された。日本船長協会は同じく会員に意見を求め、天文航法の習得は必要との立場から総会でノルウェー提案に反対した経緯がある。この結果はIFSMAとしては天文航法についてIMOにおいて特段の意見を表明することはなかった。
 数年前にはアメリカの海軍士官学校(アナポリス)にてサイバーセキュリティの観点から、天文航法の授業を再開したとのニュースがあった。英国の海軍士官学校(ダートマス)では天文航法は以前と変わらず必修だという。


LastUpDate: 2024-Apr-17