Nautilus International は英国の船舶職員組合であるNautilus UK と同じくオランダの船舶職員組合であるNautilus NL が今年の5月に国境を越えて統合して出来た新しい労働組合である。
海員関係の労働組合の国際的な統合は初めてのことであろう。
二つの組合とも、もともとは船舶職員の組合であったが、現在はMaritime professionals のための組合と称し約25,000人のメンバーがいる。
Nautilus UK は2006年10月までNUMAST(ニューマストNational Union of Marine,Aviation and Shipping Transport Officers)と称していた。これは商船の船機長、航海士機関士、練習生、そしてハーバーマスターやパイロットをメンバーとする労働組合である。
そしてこのNUMAST は1985年に船機長や通信士などの職種別の組合が合併して出来たものであり、その時点では航空士や航空機関士もメンバーであったのでAviation の名前が残ったのである。
航空士達はその後航空操縦士組合に転籍した。
オランダの船舶職員組合(FWZ)も同じような経過をたどり2006年にNautilus NL となり、Nautilus UK と統合してNautilus Internationalとなったのである。
このNautilus の名前はどこから来たのであろうか。
英語では鸚鵡貝のことであるが、筆者はジュール・ベルヌの小説「海底2万マイル」に出てくる有名な潜水艦「ノーチラス号」からとったのではないかと思っていたが、マーク自身の説明によると違うようである。
NUMAST はオランダとの合併を視野に入れて、新しい組合の名前をどうするか、長い時間をかけて論議したが、最後にNautilus に行き着いたという。
これは1857年にリヴァプール地方の船長達が結成した組合―親睦会的な性格も多分に持っていたと思うが―その組合の事務所の由緒ある名前だそうである。
合併前のNautilus UKはメンバーが約19,000人で書記長はILO の数々の海事関連会議で船員グループのリーダーとして名を馳せたBrian Orrell であった。
Brian Orrell については、本誌にILO 会議報告の中で紹介したこともあり、写真を掲載したこともある。
彼は機関長出身でよく響く声を持つ6フィートを越す大男であり、会議の席上では圧倒的な迫力を持っていた。
それにひきかえマークはどちらといえば英国人としては小柄で、童顔のお坊っちゃま風である。
マークはビートルズで有名な街リヴァプールを中心都市とするマージーサイド州で育った。
父親も伯父も船員経験者だったそうで、船員を志したのは自然であろう。
筆者がマークに最初に会ったのは1987年秋で彼がBank Line の二等航海士を辞め、国際的な船主団体であるISF(International Shipping Federation 国際海運連盟)のロンドン本部の事務局員として就職したときである。
このISF は有名なICS(International Chamber of Shipping 国際海運会議所)の姉妹団体で労務問題を専門とする団体である。
ILO では使用者団体(船主団体)の中核として、またIMOでは船員の教育訓練問題の船主代表として活躍している。
マークは船員労務問題を追及するにはもっと勉学の必要を感じたのであろう、ISF の事務局員を短期間でやめてウェールス大学とロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(通称LSE)で学び修士号を取った。
常日頃感じていることであるが、英国では船員がセカンド・キャリアーを志向する際の教育訓練システムがよく整備されている。
奨学資金の充実しかり、教育機関の入り口の柔軟性しかり、労働市場の流動性しかりである。
これは先進国において自国船員を養成確保する上でもっとも必要なシステムであろう。
先進国の船員がそのすべてのキャリアを海上勤務で終わることは現実的でないし、また企業側としても海上経験があり、管理能力もあり経営にも参画出来るような教育訓練を受けた優秀な人材を求めていることは明らかである。
さて、マークはこの後、ITF(International Transport Workers Federation 国際運輸労連)本部で働き始めた。
ITF では書記長代理まで上り詰めたが、2000年に当時のNUMASTに移籍した。
マークはITF の書記長であるDavid Cockroft の後継者の一人と目されていたこともあり、ちょっとした波紋を広げたように記憶している。
NUMAST では最初Executive Officer、そして副書記長となり、今回オランダの組合と統合を機に25,000人のメンバーを擁するNautilus International の初代書記長に選挙で選ばれたのである。
マークは日本人のケイコさんと結婚し、ミミちゃん(美々?13歳)とカイちゃん(海?10歳)の二人の子供がいる。
ケイコさんとは1989年にマレーシア東部のティオマン島で出会い、1994年に東京の千代田区に婚姻届を出したという。
きっとロマンティックな出会いがあったのであろう。
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