第23回 神奈川県横浜市立緑園東小学校

作文/打越/板津/山崎
 OB船長のいない学 川崎汽船船長 東海林 明

 今回私が講演させていただいたのは、自宅から歩いて数分ほどの横浜市立緑園東小学校。長女と長男はすでにこの学校を卒業し、現在次男が通っている小学校です。
この学校は、かねてより地域との交流や体験学習、外部の人を呼んでの講演会などに積極的で、親と先生、学校と家庭の距離が近い学校です。私も陸上勤務中にこの小学校のPTA役員を引き受けたことがあり、今年は家内がPTA活動をしています。その関係もあって、「船長、母校へ帰るという、船長が学校で海や船の話をする企画があるのですが」と校長先生に持ちかけたところ、「是非是非お願いします」と、とても積極的なお返事が返ってきました。
「母校ではないのですが構わないのでしょうか?」
と日本船長協会にEメールでお尋ねしたところ、村田常務理事から、「母校でなくても一向に構いません。」とのお答えを早速いただき、それから学校で実施可能な候補日を3つほど選んで船長協会にお伝えし、澤山会長、柳原良平画伯のご都合の合う日を実施日として決定した以後は、トントン拍子で話が進んで行きました。
講演をすることが決まってから、改めて船長協会のホームページをじっくり拝見し、この50周年の記念事業が「船長、母校へ帰る」から、母校に限らずOB船長のいない小学校への出前講演も行う「子供達に海と船を語る」企画に発展していること、これまでに22回もの講演が行われていること、過去そうそうたる大船長の諸先輩が参加されていることなどを改めて知りました。私は船長実職を執ってわずか2航海で下船となったばかりの新米船長ですから、こんな自分ごときがやってもいいのだろうか、もう少し月報Captainをじっくり読んでおくのだったと今さら後悔しても始まらず、とにかく前へ進むことにしました。
船長協会からは、過去の講演会のビデオや、講演会当日に使用するためのDVD、ポスター、児童に配布するパンフレットや小冊子、柳原良平画伯の下敷きなどを始め、最新式のプロジェクター、DVDプレーヤー、レーザーポインターなども小学校宛てに送られてきて、まさに至れり尽くせりでした。

 講演対象は当初、同校の5、6年生および保護者という予定にしておりましたが、学校から4年生も参加させて欲しいとの要望があり、4年生以上全10クラスの児童360名に保護者(希望者)を体育館に集めて実施することになりました。
さて講演内容ですが、はじめは学校の授業時間を使ってやるのだから多少は教育的なことをと思い、日本が輸入に頼っている物資やそのほとんどを船で運んでいることなどを、クイズ形式で知ってもらうといったプランも考えたものの、とてもそれで360人の児童の興味を40分間引き続けることはできないであろうと考え直しました。
学校の先生からも「話の中で出てくる数字などは(例えばタンカーで運ぶ原油の量がプール何杯分などと例えて見ても)、子供たちは次の日には忘れてしまうでしょう。でも東海林船長が体験された貴重な経験をお話になれば、きっと子供たちはいつまでも忘れないと思います。」と、必ずしも教科内容にこだわらないとのアドバイスをいただきました。
結局基本コンセプトとしては、「経験談を中心に子供たちが興味を持ちそうなトピックを話し、その中で子供たちがそれぞれ、海の厳しさや自然の美しさを自分なりの感性で感じとってもらう。」ということとしました。
過去この講演会を実施された歴代船長の感想の中にも、「あっという間に時間が経ってしまった。」「あれもこれもと盛り込みすぎて、後半は駆け足になり消化不良であったのではないかと心配した。」などというご指摘が多く、話すトピックの数は極力抑えるように努めました。

 導入では、弊社の町田研修所から運び込んだLNG船のモデルシップを使って、船の大きさの説明。船の長さは横浜のランドマークタワーとほぼ同じと言っても実感としては今ひとつのようでしたが、小学校の前の交差点からトコトコと歩いて、ビデオショップを過ぎ、モスバーガーの前を通り、ガソリンスタンドまで、といった例えをすると、児童の間から感嘆の声があがりました。
柳原良平画伯の下敷き(児童一人に一枚ずつ配布)に、代表的な船の種類が描かれていましたので、これを使って船の種類の説明を小さなトピックを交えながら簡単に説明し、DVD「海と船」の冒頭部分(船の種類)を上映。子供たちは食い入るように見ていました。
建造中の新造VLCCの船首部が映し出されたところでDVDを一時停止し、船底からデッキまでの高さが、小学校の校庭から屋上までの高さの3倍であることを説明し、バルバスバウに鯨が乗った話をクイズを交えて紹介しました。
そしてこんなに大きな船でも台風に遭ってはひとたまりもないことを説明。今まで経験したことのある揺れを、はじめは「右に10度、左に10度」から段々と「右に20度、左に20度…」と体を左右に揺らしながら説明すると、子供たちも一緒に右に30度、左に30度…と体を揺らしてくれました。
海賊の話では、最初にDVDの海賊襲撃シーンを少し見てもらった後に、「鍵のかかった船長室の外で、乗組員が海賊に捕まって開けてくれと言っている。君が船長だったらどうするか?」という質問をしました。
「鍵をかけたままにして警察を呼ぶ」「お金はありませんよと嘘を言って追い返す」「お金を渡して帰ろうとしたところを後ろからやっつける」など、子供らしい答えがいくつも帰ってきました。

 ペルシャ湾での戦争の話では、今回のイラク戦争時の模様を紹介。「イラン・イラク戦争の時にはフランスの軍艦がフランスのタンカーを守っていて羨ましいと思った。もしまた同じような戦争が起きたときに、日本のためにエネルギーを運んでいる日本のタンカーを、日本は守るべきか、守るべきでないか?」と少々高度な質問をしたところ、出てきた答えは次のようなものでした。
「日本のために運んでいるのだから、守るべきだ。」
「空からやられたら一緒にやられてしまうから、守るべきでない。」
「守るための船の燃料がもったいないから、守るべきでない。」
「相手の国から嫌われたら石油を売ってくれなくなるから、守るべきでない。」
などなど。

 嬉しかったのは、子供たちが自分の頭で一生懸命考えて答えてくれたこと。これが高校生くらいになると、ちょっと頭の良い子ほど、新聞やテレビの受け売りのようなことを言うのでしょうけれども、小学生たちは本当に小学生らしく考えて答えてくれました。

 このような質問を360人の児童に投げ掛けたとき、収拾がつかなくなるのではと当初危惧し、学校の先生にお尋ねしたところ、「うちの子たちは大丈夫です。そのときはワッとなるかも知れませんが、話題が次に移ればそちらに集中するのですぐに静かになります。」と自信たっぷりのお答えでしたが、まさにその通りであったので、本当に驚きました。
「答えについてはこれからの勉強の中で考えてください。でも、本当に守るべきなのは、タンカーではなく、平和だと思います。」とこの話題を終え、「海の上は恐いこと、危ないことばかりではなく、海でなくては見ることのできない美しい星空、様々な動物たちなどに出会える。」と締めくくりました。
講演会の前日、中学生の長男相手に予行練習をしたときには、「つまらない話ではないけれど、さりとてメチャクチャ面白くて引きつけられる様なものでもない。今一つインパクトに乏しい。」といった感じでした。
ところが本番では、子どもたちの真剣な眼差しにぐいぐい後押しをされるように話が進み、話をしているこちらの方が、ワクワク、ドキドキするような未体験ゾーンに突入し、あっという間に40分が経っていました。本当に子供たちに助けられた、という気がいたします。
最後の質問コーナーでは、女性でも船長になれるか、というテーマも取り扱われましたが、講演後の作文の中で、「将来の夢は決まりました。船長になりたいと思います。女性の船長は、わたしが実現させると思います。」と書いてくれた6年生の女の子がいました。
また、自宅に帰ってから、配られたパンフレットや小冊子を食い入る様に読んでいた男の子の話とかが母親経由の情報ネットワークで次々と入り、疲れはしたものの、つくづくやって良かったと思いました。

 この企画がこれからも末永く続き、大先輩のOB船長の方々は元より、若手の現役船長がどんどん加わり、さらに発展して行くことを祈念して止みません。    (おわり)

作文/打越/板津/山崎

LastUpDate: 2020-Aug-10