第24回 静岡県立下田北高等学校

 元日本郵船船長 菊池 善次郎

はじめに

 今年6月初め、母校の下田北高等学校の伊藤教頭先生から電話があった。「5年前から卒業生講演会という行事を始めたのですが、今年は菊池さんに日本の海運や船についてのお話をして頂きたいのですが・・」という依頼であった。諸先輩を含めた沢山の卒業生がいる中、私ごときが講演するということはいささか僭越なことではとの思いであったが、一方で海運や船や船員問題について日本国民の関心の無さ(これは偏に海運関係者の日ごろの宣伝不足によるものであると思うが)を常々感じているところでもあったので「何かお役にたつ講演会になりますよう頑張りたいと思います」と喜んで引き受けることにした。

 そういう訳で今回の講演会は学校側からの依頼が引き金で行われたものではあるが、母校の先輩に話を聞くという企画と講演内容からして現在日本船長協会が行っている「船長、母校へ帰る」と正に趣旨を一にするものである。早速、日本船長協会の大河原専務理事、村田常務理事に話すと「全面的にバックアップします」という有難い返事がもらえた。

準 備
その後田代校長先生からの正式講演依頼状を受け取る。講演期日は7月16日(水)1300から1430まで。対象者は722名の全校生徒と先生方など総数約800名。会場は校内ではなく下田市民文化会館大ホールが予定されていた。
丁度2年程前、母校の南伊豆南崎小学校で「船長、母校へ帰る」の講演会を小学生向けに行ったことがあるので当時のファイルを引っぱり出し、その中のテーマから高校生向けのものを抽出、データーなどは船長協会から頂いた資料やインターネットで調べた数字から最新のものに修正することから準備を始めた。高校生向けなので話題も用語もちょっとレベルを上げた。更に今回はパソコンを利用、生徒がスクリーンの映像を見ながら話が聴ける様に講演計画を立てた。演題は『豊かさを運ぶ船』とした。

 話のすじが纏まったところでMicrosoft PowerPointを使ってグラフや世界地図や日本の美しい外航船の写真をパソコンに取り入れた。6月末準備は略完了した。
その後、パソコン、テレビ、カラオケ装置等を使って家で実際に声を出して講演の予行演習をやってみた。何回か講演は経験しているがその度に考えていることが思うように説明出来ず情けなく思う。特に制限時間の調整が一番難しかった。
予定日が迫るにつれ、教務担当の山本先生やIT担当の寺崎先生と綿密に打合せ、当日に備えた。

当 日
母校の静岡県立下田北高校は日本開国の地、伊豆下田港に近い蓮台寺温泉の高台にある。当日は車で早めに下田北高校を訪れ最終打合せをした後校長先生と昼食をとりながら日本海運の現状や船員問題、船などの話をいろいろすることが出来た。いろいろ興味ある質問等が出て有意義なひと時だった。その後車で約15分、下田市の中心にある下田市民文化会館に向かった。

講演概要
13:00時、会場は白色制服姿の男女生徒と先生方/一般参加者約800名で埋まる中、教務担当の山本先生の司会で講演会が開始された。田代校長先生により講師紹介を受けた後私の話となった。会場の中央前部にはプロジェクター、正面舞台には大型スクリーンが用意されており、舞台のやや右手に演壇を位置させ、そこにパソコンを置いて画面送りのパソコン操作も自ら行い、写真やグラフの説明にはレーザーポインターが用意され、又、胸付けマイクは感度調整が真にうまくとられており、会場全体に話が伝わった。
学校側の万全のセッティングのもと講演をすることが出来た。

(講演内容)
*海運と私たちの生活…… 資源に乏しい島国日本にとって如何に海運が重要かを強調

 (グラフ映像をふんだんに使う)
*海運の担い手、外航船の説明(美しい船の写真をふんだんに見せる)
*国際化する船と乗組員(日本船が減り続けている!日本船員も極端に減っていく!)
*海難防止と地球環境保全
(タイタニック号以来弛みなき海難事故防止に取組んではいる。最近では地球環境保全
が重要なテーマ。しかし伊豆沖でもしょっちゅう海難が起こっている。昨年大島で座礁

 したPCCファル・ヨーロッパ号事故は伊豆にとっても他人事ではない。鹿児島志布志湾
でのコープ・ベンチャー号事故もしかり。(両海難の現場写真を紹介)
*日本は今この様にエネルギーを始め衣食住の殆どを外国に依存している。そしてこれら
を運ぶ「船」も「乗組員」も結局は「安全」までも、多くを外国人に頼っている現状で
ある。これでいいのか。答えはこれから皆さんで考えて下さい。

 14:15頃拍手の鳴る中話を終えた。
質疑応答に入ったが時間もなく生徒二人からの質問のみとなった。その後生徒代表によるお礼の言葉があり、引き続き下田北高応援団生徒が舞台に上がってきて大声でエールを送ってくれた。更に会場の生徒全員により校歌が斉唱され、14:30過ぎ講演会を終了した。

生徒質問
*生徒A 「海賊が出ると聞きますが、本当ですか?」

  私  「本当です。かって私も海賊に遭いました。世界の海で昨年は1日1件の割合で海賊事件が発生しました。その半分がマラッカ海峡付近で発生しています。貴重な積荷が略奪されるばかりでなく乗組員も多数殺されています」
-----乗組員も殺されていると聞いて一瞬会場がざわめいた。4年前、新聞やテレビがアロンドラレインボー号事件を取り上げてから一般の人にも海賊について知る人が多くなった。報道とは恐ろしいものである。「危機に瀕する日本海運」(一つの見方)を多くの国民に理解してもらう為には報道を通じたPRが一番-----

*生徒B 「私、将来、船を買おうと思うのですが、値段はどのくらいするものでしょうか?」
私  「船の値段は時によって違ってくるのでいちがいには言えませんが、おおよその見当として、LNG船なら300億円、30万トンタンカーや7000個積みコンテナ船は80億円から100億円ぐらいします。もっとお安いのがいいなら、小麦や大豆を運ぶバルカーなら20億円から25億円ぐらいでありますが如何ですか」

 生徒A 「分かりました。頑張ります」

-----なかなか頼もしい後輩です。20年、30年後、今日の話を頭の片隅に、日本船や日本船員の現状を理解した若き海運経営者が伊豆から出ることに期待したい-----

あとがき
*講演会のために日本船長協会からは最新の日本船主協会資料や海運関係ビデオを頂いた。又、小冊子“海と船なるほど豆事典”を沢山用意して頂き一般参加者や生徒に配布することが出来た。海や船についてのちょっとした知識が纏めてあって大変好評であった。博物館リストを見て「日本全国にはこんなに沢山の海や船に関する博物館や資料館があるんですねー。参考になります」という先生もおられた。

*講演中場内は携帯の音一つせず、生徒は私語もなく物音も立てず、シーンとして話を聴いてくれた。終始適度の音量調整の効いたマイクを通し略々80点ぐらいの講演が出来たと思っている。これにはこちらの説明用画像やデーターを舞台のスクリーンに大きく、はっきり、美しく映写するための綿密な諸準備をしてくれた学校側IT担当者の協力も大きい。最近、いろいろな講演会で感じることは映像による説明の威力と説得力である。

*この原稿を書いている今、高校野球真っ盛りである。試合に勝ったチームは必ず校歌斉唱となる。校歌の歌詞にはその学校の目指するところが詠われ、曲は独特の響きを持つ。どこの高校の校歌斉唱を聴いても胸に熱いものを感じる。
講演の終った後、会場の舞台の真中で生徒代表の感謝の言葉を受け、引き続き下田北高応援団生徒による盛大なエールを受けた。そして生徒全員による校歌斉唱を何十年ぶりかで聴いた時、ことのほか胸が熱くなった次第である。

*講演会の模様は伊豆のテレビ局や朝日新聞、伊豆新聞等の記者が取材していた。
テレビではその夜のニュースで放映されていた。日本海運の現状を講演参加者以外の人にも、一人でも多く知ってもらえれば有難いことである。

*講演会場には私の下田北高同級生30人近くが講演を聴きにわざわざ駆けつけてくれた。講演会の終った後は近くのレストランで打ち上げ会まで開いてくれた。この上なくうれしく且つ有難く思った。

 


LastUpDate: 2020-Aug-10