第25回 福井県福井市立宝永小学校

作文/石黒文果/鈴木克法
 大阪湾水先区水先人 元日本郵船船長 北條 直史

 越前蟹と名勝・東尋坊で有名な福井県三国町には、かなりの外航船員が居たので海事思想は一応のレベルに達する。しかしその南西にあたる県都福井市は、周囲の村を合併して今では海岸線を有するものの、市民のほとんどが海・船とは全く縁が無い、人口25万の、何の変哲も無い中都市である。当然のことながら私の育った小・中・高校でも、海事に関する授業や教科書の記述も無かったように思うし、先輩にも、その方面の方は皆無といって良い。とりわけ私は寺に育って、親兄弟姉妹親戚あらゆる係累が僧侶か坊守という中にあって船乗りなんぞを夢見たものだから、異端の心境。周囲との話題の隔絶に何とは無いコンプレックスを抱いていたといえそうである。

 「船長、母校へ帰る」はそんなコンプレックスを解消してくれるのでは? との期待が、母校へ電話させ、船長協会の先輩に話を持ち掛けさせることとなった。協会によれば、学校が提案を受けるか断るかは、窓口の先生の趣味と関心に100%左右されるという。幸いに母校の教頭先生は、姉と兄の知己であったこともあり、大いに歓迎し、受け入れていただいた。
福井市宝永小学校。福井市の寺町にある。生徒数300。私の通った頃は1,300人だったと記憶する。話を聴いてくれたのは5・6年生約100名と先生方。本物の父兄と、父兄を偽る我が係累少々。それに協会が動員を掛けたメディア少々。
「おはようございまーす!」
純真無垢な、興味津々の200の瞳が一斉にこちらを見つめる。緊張気味の私も努めて笑みを作り「おはようございまーす」。ぎこちなくも懸命に、液晶プロジェクターでグラフを示し、写真を見せ、ビデオの力を借りて、分かり易く、分かり易くと念じつつ語る。随所で質問が飛ぶ。都度答える。話し手と聞き手の一体感を感じる。
鉱石専用船は貨物を揚げた後、バラスト水を積んで積地に向かい、そこでバラスト水を捨てると説明したところ、今日一番の鋭い質問が女の子から発せられた。
「それでは海の生態系を乱すのでは?」

 そのとおり。少しでも生態系を乱すことが無いよう、最近ではバラスト水を深海洋で入れ替えることが義務付けられていると説明。20世紀の大人達が壊しつづけた地球環境を、21世紀のこの子達は少しでもリカバーしてくれるのではないかと期待を抱かせてもらった。
かくして予定の時間は過ぎて行く。3回リハーサルをして、最初のシナリオを半分以下に削って、これなら時間通りにやれるかなと考えた最終稿も全部はやりきれずに、かなりを端折ることになった。
最後に生徒代表のお礼の言葉は、「大変興味深いお話をありがとうございました。私達も将来、人に誇れる仕事に就けるよう努力します。」とあり、心地よい満足感を味わうことができた。勿論それは自己満足でしかなく、本当の評価は子供達の感想文を待つより無いことだが……。
今回、月報「Captain」誌上の諸先輩の体験記は大いに参考にさせていただいた。船長協会からは澤山会長・村田常務理事にご同行いただいた。おもに村田キャプテンからは細々とした点までご教示いただき大変助かった。また、次のように沢山のものを学校に寄贈していただいた。いずれも本当にありがとうございました。
船長協会から
ビデオ「海と船」

船主協会から
ビデオ:「豊さを運ぶ海の道 コンテナ船」、「地球環境と海運」。
パンフレット:「Shipping Now 2003」(先生用)、「海と船なるほど豆知識」(生徒・先生用)、「めざせ海のエキスパート」(生徒用)、「船ってサイコー」(生徒用)。
小学校壁新聞No.1~7(各教室掲示用)。
船の下敷き(生徒用)。イルカのボールペン(生徒用)。
私からは、パイロット協会のビデオ「The Pilot」を寄贈した。

 個展のご準備で多忙を極められた柳原画伯にご同行いただけなかったのが、唯一の心残りではあった。

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 今後おやりになる方の参考になればと思い、レジメを下記します。
講演時間
校長先生挨拶      5分

澤山船長協会会長挨拶  5分
北條講演        75分
講演        50分
ビデオ       25分
生徒、お礼の言葉    5分
合計 90分

■準 備
●1.機材
(1)学校:黒板、スクリーン、ワイヤレスマイク、世界地図。
(2)協会:液晶プロジェクター、DVDプレイヤー、赤外線ポインター。
(3)北條:ビデオカメラ。
●2.資料

(1)北條が、予め静止画としてビデオカメラに収録したもの(教材からの切抜きなど)
グラフ:「主要物資輸入依存度」、「エネルギー輸入依存度」、「乗組員構成図」。
写 真:「ばら積み船」、「コンテナ船」、「原油タンカー」、「LNG船」、「鉱石専用船」、「自動車専用船」、「クルーズ客船」、「フェリー」、「帆船」。
(2)ビデオ 「海と船」から「巨大船を動かす」(6分)、「パナマ運河」(4分)、「海賊あらわれる」(2分)。 「The Pilot」(13分でカット)。
●3.準備
DVDプレイヤーおよびビデオカメラと、液晶プロジェクターを繋ぐ。

■講 演
●1.自己紹介
在校中のエピソードを入れると良い(村田氏のアドバイス)。
船で訪れたところを世界地図で示す。
●2.今日の献立

給食の献立からパンを取り上げ、その原料である小麦粉がどこから来るかを話す。
主要物資の輸入依存度を説明。
●3.エネルギーの輸入依存度
●4.加工貿易立国
物資やエネルギーを輸入して、鉄鋼製品、機械類、セメント、自動車、電気製品、肥料などを輸出している日本の、このような有り方を「加工貿易」と言っている。
そして、生活や産業に欠かすことのできないこれらの輸入品や、輸出品のほとんどを運んでいるのが船。船無しでは世界の経済も、皆の生活も成り立たない。

●5.船の種類
ばら積み船(満載の大豆で豆腐が何丁作れるか。)
コンテナ船(ドア・ツー・ドア。中身の多様さ。)
原油タンカー(学校のプール・学校を中心とする地図との比較で大きさを説明。 7年前、福井県沿岸で大被害をもたらしたナホトカ号の油濁事故から、ダブルハルを説明。)
LNG船(-162℃の超低温で液体にすると体積が600分の1。1隻200億円以上。
1隻で、福井県の全家庭26万戸が1年間に使う都市ガスを運ぶ。)

鉱石専用船 自動車専用船 クルーズ客船 フェリー
●6.操縦性能
(ビデオ「巨大船を動かす」)6分
●7.乗組員
「乗組員構成図」で説明。外国人との混乗にも触れる。
●8.パナマ運河

(ビデオ「船の航路、パナマ運河」)4分
アメリカは、黄熱病やマラリアの原因である蚊を撲滅するためにどうしたか。
●9.海賊
(ビデオ「海賊あらわれる」)2分。
武器の無い船が、海賊の侵入をどのようにして防ぐか
●10.パイロット

(ビデオ「The Pilot」)(13分でカット)
●11.最後に
中学校2年の遠足で敦賀港に行ったとき、初めて貨物船を間近に見て「船乗りになろう」と思った。商船大学に進めば帆船でアメリカに行けることが分かり、ますます夢が膨らんだ。夢を抱きつづけていたらとうとうその夢が実現した。
皆も、何か夢を見つけて膨らまし、その夢が実現するよう努力して欲しい。きっと夢は実現すると信じて……。

 

作文/石黒文果/鈴木克法

LastUpDate: 2020-Aug-10