IFSMA便りNO.10

(社)日本船長協会事務局

IFSMA理事会

春のIFSMA理事会はフランスはボルドーの片田舎で行なわれた。
神戸から乗り物に乗っている時間だけで丸々24時間かかる。
パリからフランスの新幹線TGVに乗り、さらにローカル線に乗り換え、駅員が1人しかいない駅(写真1)について、タクシーを呼ぶために約30分間悪戦苦闘したが、実際にタクシーが来るまでに更に1時間掛かった。
なまじ片言のフランス語を使うと、機関銃のようなフランス語が返って来てお手上げである。
そもそもここで理事会をすることになったのは、副会長の一人であるパトリック船長(苗字は長ったらしいので省略)が名誉村長を務めるリニエール・ソンネヴィユの村を是非見てもらいたいと招待したからである。
このあたり一帯はなだらかな起伏の続く地形で、全てブドウ畑である(写真2)。
そして白ブドウ酒から作るコニャック生産の中心地でもある。
近くには有名なヘネッシーの工場もあり、見学出来るようになっている。(写真3)
リニエール・ソンネヴィユの村外れにコニャック生産で財をなした一族が1873年に建造したシャトーがあるが(写真4)、パトリックはこれを6年前に買い取って、余生を村の有形文化財であるシャトーの修復・保存に当てるとの事である。
日本のマンションに時折シャトーと名前がついているものがあるが、こちらは敷地が4エーカーある本格的なシャトーである。
本館は寝室が9、バスルームが8あるそうで、やたらと天井の高い居室は冷暖房費が大変だろうと他人事ながら気になる。
敷地にはかって使用人が住んでいた長屋や厩もある。
理事会はパトリックの手配で、村の公会堂で行なわれた。
これは17世紀の始めに建てられたという由緒ある建物である。
会議はその公会堂(写真5)の大広間で行なわれたが、やたらと広くって寒々としている。
寒さに強い北欧の連中すらも時折、壁際に据え付けられたラジエーターで足腰を暖めながら発言する有様である。
寒さに弱い筆者は会議中もマフラーを首に巻いてひたすら我慢の子であるが、議論は何時に無く熱いものであった。

写真1 写真2
写真3

理事会

今回はロシアの副会長を除いて、会長、会長代理、6人の副会長、事務局が勢揃いした。
国籍は、ノルウェー、スウェーデン、英国、ドイツ、フランス、米国、アルンゼンチンそして日本である。
会議をリードするというのか、圧倒的に発言量が多いのは、ノルウェー、ドイツ、英国である。
残りは時折、茶々を入れたり、自国の事情や自分の専門分野になると長広舌を振るうというわけである。
理事会メンバーは普段E-MAILで連絡を取っているが、顔を突き合わせるのは、春・秋の理事会と初夏に行なわれる総会の時だけなので、皆良くしゃべる。
それだけ船長やIFSMAが抱える問題も多く、多岐にわたっているとも言える。
理事会ではIFSMAの活動に付き一通りおさらいをするわけだが、やはり関心は6月にマニラで開かれるSTCW条約締約国会議とその前後に行なわれるIFSMA総会及びワークショップ、そしてIFSMAの将来像である。

写真4 写真5
写真6


1.STCW条約締約国会議

これについては、本誌前号(第395号)にこの締約国会議の準備会議とも言えるIMOのSTW小委員会出席報告として、問題点を紹介したのではここでは改めて述べない。
この15年ぶりのSTCW条約大改正に当たって、IFSMAが問題としている天文航法の学習や、労働及び休息時間、疲労の問題、配乗人員の問題、あるいは証書更新の手続などでかならずしもIFSMAの主張が受け入れられたとはいえない。
このため締約国会議にはIFSMA会員が出来る限り出席して、各国の理解を得て、少しでもIFSMAの主張が認められるように努力することとした。


2.IFSMA総会

総会には日本船長協会から日本の海上気象サービスと航行安全についてパワーポイントを使用して講演予定しているが、これは歓迎され承認された。
その他には「タンカー・インスペクションとセルフ・アセスメント」、「STCW条約と船長」、「本船上におけるアスベストの被害とその対策」、「マンニング・クライシス」などの講演が行なわれる予定である。
今回の総会では4年ぶりの役員選挙が行なわれる。
会長のクリスタ・リンドヴァル船長は出身団体のスウェーデン船長・航海士会の支援を得て、もう一期務めるべく立候補したが、対立候補はなく再選される予定である。
副会長ではフランスのパトッリク、英国、ロシア、ノルウェーが退任する予定で、それぞれの国から立候補しているが、ロシアは今のところ動きはない。近年ロシアの船長の存在感が増してきているので、もっともネガティブな面での存在感も強いが、是非ロシアから副会長を出したいとの理事会の意向もある。

3.IFSMAセミナー

このセミナーはSTCW条約締約国会議の終わった翌日、6月26日(土)にこの会議を総括するようなセミナーを計画していたが、その後、このセミナーの共同主催者となる。
フィリッピン船長協会の強い意向で、“2010:Year of the SEAFARER”と題して大々的に行なうこととなった。
船員の役割に今一度スポットライトをあて、そのイメージを向上させると共に、船員を取り巻く国際的な問題について、多方面の関係者が意見を交換する貴重な機会となる。
基調講演はIMO事務局長が行い、同じくIMO安全委員会議長の報告、フィリッピンの外務省及び労働省の高官も講演することとなっている。
参加者はフィリッピンの商船学校学生など約500人、一般海事関係者、締約国会議参加者、約500人、計1,000人を見込んでいるとの報告があったが、これにはさすがに各理事から疑問視する声が出た。
1,000人とは大風呂敷であるというものである。
締約国会議には恐らく1,000人を超す参加者があるが、1週間にわたる会議の後では、一刻も早く帰国したいであろうし、この会議に出席するためにわざわざ近隣からマニラに来るとは考えられないし、関係者にとってどれほどインパクトのある会議か分からない、また学生を500人動員すると言っても具体的にどのような手配を行なうのか心もとない、というわけである。
こうした指摘を受けて、会長及び事務局が再度フィリッピン船長協会と詳細を詰めることとなったが、願わくばフィリッピン在住の本会会員や海洋会会員の諸兄に是非出席して頂きたいものである。
なお、参加費は1,000ペソ(2,000円強)を予定している。

4.IFSMAの今後の活動

事務局長からThe Strategic Review of IFSMAなるペーパーと予算案が示された。
そのなかで事務局長であるマクドナルド船長は2012年総会で辞任し、2014年に交代となる会長を始めとし、大幅な変更が予想される新執行部を支える事務局を万全の体制で固めたい、そしてこれを機会にIFSMA創設以来の悲願である常勤の事務局長を迎えたい、というものである。
常勤の事務局長はいわば理事たちの夢でもあるので、何ら異論はないが、問題は言うまでも無く経費である。
IFSMAのような予算的には吹けば飛ぶような団体が常勤の事務局長を雇えるかというものである。
この3月末で締め切る2009年度の収支は会費等の収入が約90,000ポンド(1ポンド=140円として1,260万円)、支出は家賃や印刷代、通信費のほか、人件費である事務局長、副事務局長、事務員のコストが45,000ポンド(630万円)、年間一人15,000ポンド(210万円)足らずである。
このほか何のベネフィットも無い。
三人とも勿論パートタイムで、週2日ないし3日、仕事に応じて出勤している。
事務局長も副事務局長も非常勤講師など他の収入の道もあるが、基本的にボランティアである。
事務局長の提案した案は、2012年より現行の会費(10ポンド(1,400円)/会員)を12ポンド(1,680円)として、収入総額を約13万ポンド(約1,800万円)程度見込む。
そして事務局長に6万ポンド(840万円)、副事務局長にこれまでどおり1.5万ポンド(210万円)、事務員に1.4万ポンド(196万円)を支払うというものである。
6万ポンドの給与で、船長の経験があり、IMOや国際海運の事情に通じた人材を見つけるのは、いうまでも無く至難の業であるが、これは英国にはまだ志のある船長もいるとの期待で、じっくり時間をかけて探すこととしたが、難題は会費の値上げである。
どの団体にしろ会費の値上げは永遠の課題である。
日本船長協会はIFSMAの配慮をうけ、これまで会員数200名で申請し、200名×10ポンド=2,000ポンド(28万円)の会費を払っていたが、本年4月より250名で申請することにしたので、値上げ後の会費総額は3,000ポンド(42万円)となる。
額はともかく財源は貴重な会員諸兄の会費であるから、慎重でなければならない。本件は自国へ持ち帰り、よく検討した上で支持が得られれば2011年の総会で決議し、2012年より実施することとした。
目まぐるしい動きのある国際海運に関わる事案について船長としてコミットして行く為には是非とも常勤の事務局長が必要であり、日本船長協会会員諸兄の理解を得たいと考えている。

5.IMO Awards for Exceptional Bravery at Sea

これは2007年にIMOによって創設された船員の表彰制度である。
自らの生命の危険も顧みず、人命救助に当たり、あるいは海難による海洋環境の汚染を防ぐために奮闘した船員を表彰し、国際的に認知し、ひいては船員と海運の社会的なイメージを向上させようとするものである。
2009年のBravery Awardは11月のIMO総会の折に行なわれた。
表彰されたのは厳寒のベーリング海で転覆した漁船から8人の乗組員を一人で救助した米国沿岸警備隊の特別救命隊員と、南太平洋でヨットが珊瑚礁に乗り上げ遭難した3人の乗組員を、同じく個人ヨットで航海していた米国人家族が自らの遭難の危険を冒して救助した行為に対して贈られた。
さらに“Certificates to highly commended nominees”として人命救助を行なった士官及び4人の船長と乗組員に表彰状が与えられた。
また“Letters of Commendation”として人命救助や事故防止に貢献した11のケースに対し、賞状が贈られた。特別の機会としてソマリアの海賊対策としてパトロールを行なっている各国海軍、これにはもちろん日本の海上自衛隊も入っているが、に対して、IMO事務局長から“Certificates for Exceptional Services Rendered to Shipping and Mankind”が贈られた。
この表彰制度はその目的とする船員や海運のイメージを高めるものとして、特筆に価するが、ここで一つ問題を提起しておかねばならないのは、これの表彰された関係者はごく一部の国あるいは機関に限られているのである。
アメリカ、中国や韓国関係者が多いのは、これらの国がこの制度を熟知して積極的に利用していることである。
この制度が出来た時、筆者も理事会の席で紹介したとの記憶があるが、その後積極的に何かをしたことは無く、筆者としては、その点で反省する所がある。
毎年日本船長協会が行なっている船長表彰は
当然IMOのAwards for Exceptional Bravery at Seaの対象なり得るからである。
日本船長協会が本件の事務局であるわけでもないが、船長のイメージを高めることは積極的にすべき事と考える。
3月の理事会でも本会の船長表彰についての議論があったこともあり、この点については、執行部や理事会でよく論議し、その上で関係者とも意見を交換したらどうだろうか。
さて、IFSMA事務局長はこの制度の創設以来、表彰の対象となる船長や船員の審査委員会のメンバーであり、またIFSMAとして候補者を推薦するなど、これに積極的に関わ
ってきた。
今年の候補者としてIFSMA事務局から案として提示されたのは、Bank Lineの英国船長で、ソマリア沖で海賊にライフルや手榴弾で襲われたとき、そのロシア人乗組員と共に重い材木やコンテナのツィストロック等を使って防戦し、最終的に海賊のボートを撃退したというものである。
しかし、この推薦案についてやはり理事会メンバーから異論が出た。
もちろん誰もこの英国人船長の勇敢さや冷静さについて疑問を差し挟むものではないが、船長として実際に海賊に襲われた際に、どのように対処するかは大きな課題である。
船長自身及び乗組員を直接危険にさらすことは当然避けるべきことであり、この英国人船長をIMOが表彰することは誤ったメッセージを与えかねない、IFSMAとしては慎重であるべきである、との論であった。
残念ながらIFSMAとして、具体的に海賊のどのように対処すべきか方策もなく、本件に関する審議はとりあえず打ち切りとした。
他にも報告すべきと考える問題は多くあるが、また別の機会に譲りたい。

米国船長協会“Sidelights”への寄稿文

米国の船長協会の機関誌“Sidelights”については、月報Captain第393号平成21年10・11月号のIFSMA便り(No.7)にて紹介しましたが、この“Sidelights”編集部から当協会に寄稿の依頼がありました。
これに応えて当協会の赤塚副会長が“Japan Captains’Association”と題して当協会の設立趣旨、目的や活動、会則等について紹介しました。
紹介した活動の中で「船長、母校へ帰る」と当協会制定の「自主設定による分離通航方式」に関心が寄せられたようです。
ここに2010年2月発行の“Sidelights”の記事を掲載しますので、一読戴ければ幸いです。

(文責 赤塚宏一)

Sidelights

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LastUpDate: 2021-Jun-23