IFSMA便りNO.18

(社)日本船長協会事務局

Halifax

今年の総会はCanada のHalifaxで6月9日-10日に開催された。これはカナダの船長協
会が海洋環境と安全運航と題する国際セミナーを開催するにあたりIFSMAを招待したものである。
このHalifaxは、1972年に邦船5社グループがニューヨーク・コンテナ航路を開設するにあたり、東カナダの寄港地をどこに絞るかで、グループが二分化した時の有力候補の一つであり、他の一つはSt. John New Brunswickであった。
このため当時の邦船5社の若手のポート・キャプテンはコンテナ船がそれぞれの港に入港する度に本船に張り付いて、荷役オペレーションを細かく指導監督し、その港がいかに効率よく経済的であるかを立証するために苦労したものである。
筆者もその一人として、Halifaxには20数回出張した。HalifaxはNova Scotia(NewScotland)州の首都であるので、本家のスコットランドによく似た美しい所である。
特に夏は素晴らしい。
しかし、冬は氷と雪ではなはだ寒くコンテナ船のオペレーションには厳しい環境である。
ヤードに雪はつもり、straddle-carrierはスリップして操作は困難を極め、コンテナのcorner castingは氷結し、twist lockは動かないなどで荷役能率はガタ落ちし、出帆時間がのびのびとなり、本船に多大のご迷惑をかけたことが何度もある。
そんな思い出の港である。


海賊

さて、今回の総会は船長を取り巻く環境は依然として厳しく、今や永遠の課題ともいうべき海賊問題と船員の犯罪者扱いはいっこうに改善の兆しはなく、むしろ海賊による母船の使用によりその行動半径が格段に拡大し船長を始め船員に対する脅威は一段と増したともいえる、との認識の確認から始まった。
今回の総会では、IFSMAの審議の焦点は、武装ガードの乗船問題である。
その背景については前号のIFSMA理事会報告でも述べたところであるが、一応復習してみると海賊対策の為に武装ガードを乗船させるか否かの問題については、IFSMAは昨年のマニラにおける総会にて乗組員自身の武装化とともに反対を決議しているが、ソマリ沖の海賊被害は拡大し、狂暴化しそしてその範囲も広くインド洋を覆っている。
一方商船のシタデル化(船内の一部の要塞化)や一部の商船ですでに用いられている私設の武装ガードがそれなりに有効なところから、IFSMAの方針を見直すことが提案された。
各国ではすでにこの問題についていろいろ検討されている。
ノルウェーの戦争保険委員会は武装ガードを雇用する場合のガイダンスを出しており、考慮すべき多くの問題点を指摘している。
さらに国際的船主4団体(ICS、ISF、INERTANKO、INTERCARGO)では、この問題について方針を変え武装ガードを「容認する」との意向を表明している。
また本年5月のIMOの海上安全委員会でも武装ガード乗船のためのガイドラインが審議された。
この海上安全委員会(MSC89)で審議されたガイドラインについては、本誌前号(第403号)でIMO上級技術職員の山田浩之氏が報告されているので、一部引用させて戴く。
私設武装ガードをIMOではPrivately Contracted Armed Security Personnel(PCASP)”「私的武装警備員」といかにもIMOらしい厳密な呼び方しており、以後これを使用することにする。
「MSC89ではこの私的武装警備員を雇用し、乗船させるかどうかという問題が検討された結果、何らかのガイドラインが緊急に必要との認識がなされ、船主及び旗国向けの2本の暫定ガイドラインが策定された。
これらのガイドラインは、あくまで暫定ということで、本年9月に保安と海賊に関する作業部会を開いて、さらに検討し、船主向けのガイダンスは最終化し政府向けには寄港国や沿岸国を含んだ勧告を作成することを目指している。
重要な点は、上記暫定ガイドラインにおいても、私的武装警備員に対するIMOの基本スタンスは変わっていない。
すなわち、私的武装警備員を認めるかどうかは、個別の旗国の方針によるべきで、最終的にはリスクなどの条件を考慮して旗国が判断するものとされている。
したがって、暫定ガイドラインは、私的武装警備員を推奨し、制度化するものではない。
こうした背景のもと、IFSMAの審議においても「武装化には反対である」との表明を取り下げることには特段の異論もなく、上記のごとく旗国の判断によるものとした。
さらに、実際の雇用にあたっては、Code of Conduct 「行動規範」を全ての関係者が参加のもとに策定し、採択し、そしてそれには十分かつ明確に船長の権限と責任を示し、私的武装警備員を雇用し、乗船させる場合の法律的な問題点を明示するように求めた。
また私的武装警備員を雇用し乗船させた結果、起こりうる結果に対して船長は刑事上の責任を問われないように求めた。
そのうえ私的武装警備員は旗国により選別され、審査され、そして証明されるべきであるとして、これらを総会決議に盛り込んで発表した。

会費

これまでにも説明してきたが、現在各国船長協会の申告会員一人あたりの会費£10 /年を2002年当時の12 £/年に値上げする案である。
日本船長協会の場合、申告会員数が250名であるから、値上げによる負担増は£2×250人=£500(2011年7月14日現在の換算率で130.79×500≒ ¥65,400) 程度となる。
日本船長協会はポンド安のため殆ど影響を受けないと言って良いかとおもうが、欧州諸国においてもユーロに対するポンドも下落しており、値上げによる影響はあまりないところから、値上げ案にはさしたる異論もなく、満場一致で了承された。
この団体会費の値上げと共に、個人で参加している個人メンバーの会費も値上げされた。
こちらは£45が一挙に£60になる大幅なものである。
現在100人あまりの個人会員(筆者は個人会員でもある)のうち退会する会員も出てくる可能性がある。
IFSMAにはRegister of Technical Consultants and Maritime Experts(RTCME)という制度があり、主として個人でコンサルタント業務を行っている会員がこれに登録し、PRするシステムとなっている。
これはそれなりに有効なシステムで、海事コンサル業務の仲介役を果たしており、日本でも永住の外国人船長が登録している例がある。
このRTCMEに登録するのには登録料が必要であるが、登録するのは殆どが個人会員であるところから、個人会費の値上げを登録料の引き下げで相殺する方向で考えている。
この会費の値上げによる増収分で専任の事務局長を雇用するのがその目的であるが、残念ながらFull-timeの事務局長を雇用するには、この程度の値上げでは困難である。
したがって、週に3日勤務を前提に£45,000 ~£50,000(約590万円~ 654円)程度で募集することになった。
現在の事務局長によれば、こうした条件でもすでに関心を示している船長が2人いるそうで収入は二の次で、IFSMAの仕事に強い興味を持っているという。
心強い限りである。
今年の秋の理事会はロンドンで開かれるが、その席上候補者のインタヴューを行う予定である。

福島原発事故と放射能

IFSMA理事会の要請にこたえて、福島原発事故後の日本近海の放射線の現況、そしていかにして正確な、信頼のおける情報にアクセスするかを周知することを目的として発表をおこなった。
国土交通省の秋田検査測度課長のご指導も得てパワーポイントを作成し、総会での発表は日本船長協会の藤澤昌弘船長が行った。
発表はユーモアも交えてテンポよく行われ、講演の後藤澤船長は暖かい拍手に包まれた。
講演に使ったパワーポイントのスライドの幾つかをここに掲載しておく。
パワーポイントに加えて、本誌前号で報告された津波による港内での大型船の挙動を示す動画には聴衆一同文字通り手に汗を握り固唾をのむ雰囲気であった。

關水 康司氏

旧運輸省出身の關水氏が次期IMOの事務局長に当選した。
まさに日本にとって快挙であり、旧運輸省の20年来の悲願の達成である。
国連専門機関トップとしては2009年に退任した国連教育科学文化機関(ユネスコ)の松浦晃一郎前事務局長以来の日本人で、現職ではただ一人である。
關水氏は1977年に大阪大学大学院工学研究科を修了し、同年運輸省(現:国土交通省)に技官として入省、その後1989年IMOに派遣、1993年にはIMOに移籍して、IMOの要職を歴任し現在は海上安全部長である。
関水氏の専攻は造船であるが海事分野において幅広く豊富な専門知識を有し、船員問題や航海技術についても詳しい。
最近では、ソマリア沖海賊対策で手腕を発揮されているが、マラッカ・シンガポール海峡の海賊対策にも古くから関わっていた。
筆者は關水氏がIMO会議の日本代表団の頃からお付き合いが始まり、IMO職員となられてからは、先ごろお亡くなりになった篠村氏とともにゴルフや会食など家族ぐるみで親しくお付き合いさせて戴いた。
IMOの業務もこれまでの技術的な問題に加え、海賊対策、温室効果ガス対策など一筋縄ではいかない政治的な問題が山積している。
関水氏のリーダーシップに大きな期待が掛かっている。
選挙の結果は圧勝だったと聞くが、これはこの難局にあたり、各国がもっとも信頼出来る人物にIMOの将来を委ねたのであろう。
IFSMAは直ちに祝電を送るとともに積極的にサポートをしていくことを確認している。

(赤塚記)


LastUpDate: 2024-Apr-17