春の理事会は3 月15日、16日の二日間にわたりロンドンで開催された。
ロンドンは思ったより暖かく、英国で春を告げるラッパ水仙が咲き乱れていた。
これを見ると長い陰鬱な冬からやっと解放される思いがしたものだ。
IFSMA本部の裏の水仙も満開である。
理事会にはアルゼンチン、オランダ、スウェーデン、ドイツ、英国、そして日本から出席があった。
ノルウェーの副会長は二人いるが、いずれも欧州連合の会議などで縛られ出席出来ないという。
船員問題について欧州連合が活発に動いている様子が垣間見える。
IFSMAの現在の最大の関心事はいうまでもなく海賊問題である。
会長及び事務局長は国連や欧州連合を含む会議やセミナーに手分けして出席し、ワーキンググループの議長を務めるなど幅広く活躍しているが、なにしろ問題は広範にわたり収斂する問題でもなくここでは詳細は別の機会に譲り、ここでは興味あると思われる事項に限りたい。
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新事務局長
今年の総会で正式に採用される予定の新事務局長のCapt John Dickieが紹介され挨拶があった。
前号でB船長として紹介した人物だ。
彼は現在57歳であり、採用を決めた時に回覧された写真はかなり若い時のもののようだ。
現在はメタボ症候群が相当進行している。そして英語にはかなり強いスコットランド訛りがある。私には彼の発言をフォローするのは楽ではない。
しかし、長く船員教育に関わってきており、ISMコードや広く海事社会に関わる業務には精通しており、極めて有能な人材と見受けた。
IFSMAのような組織では海事に関わる広範な分野を殆ど一人で処理する必要があることから、Capt Dickieは貴重な人材である。
総会で正式に採用が承認された時に事務局長として所信を述べるMy Vision for the Future of IFSMA の原案を提出し説明を受けた。
IFSMAの厳しい財政事情に鑑み、新規会員の開拓は何よりも重要なので、あらゆる機会を通して各国の船長協会に接触するとのことである。
幸い彼は2010年にコンサルタントとして独立し自分の会社を設立した。
主たる業務は海事/船員教育・研修について個々の会社のニーズに応じるとともに国際的に必要とされる知識技能を網羅した研修プログラムを作成し提供することである。
この為、本来の業務出張の機会に接触をはかり、IFSMAには財政的な負担をかけないという。
プレゼン案の最後に“As a Scotsman I take money matters very seriously”とあるのに苦笑させられる。
新事務局長のもとでさらにIFSMAのプロファイルを高めたいものと思う。
原子力船
本年2 月に開催されたIMOの海洋環境保護委員会において、委員会審議の合間に“Nuclear propulsion its contribution to tackling green house gases”と題するプレゼンがLloyd’ s Registerによって行われた。
これは地球温暖化、温室効果ガス排出量の増大、化石燃料の高騰などを見据えて、原子力船に再び焦点を当てようという意図と思われる。
具体的には1966年~1976年に船級規則を制定したが、最近の技術革新及び福島原発事故などを踏まえて新しい規則を制定することにあるようだ。
IFSMAとしては、いずれIMOでの審議に備えて、IFSMAのポリシーを定めておく必要があるとしてオン・テーブルされたものである。
本件に関して、各国から特段のコメントは無かったが、日本船長協会としては、日本は世界での唯一の被爆国であること、原子力船については「むつ」の事例があること、福島原発事故はいまだどのような形で収束するのか明確な形で見えない現在、こうした問題を取り上げるのは非常に難しい、IFSMAとして慎重の上にも慎重に扱ってほしい旨発言し了承を得た。
2012年総会
今年の総会はデンマーク船長協会の招きで6月14日(木)、15日(金)の両日コペンハーゲンで開催することが決まっている。
その前日13日(水)はデンマーク船長協会主催により“Lean Ship of the Future”(これからの経済的な船舶)と題して国際セミナーが開催される。
総会で審議されるペーパーやプレゼン用のペーパーは既に数編提出されているが、日本船長協会からも昨年に引続き原発事故の現況について報告するよう要請があった。
なお、2013年の総会は豪州船長協会の招待で4月にメルボルンで開催、また今回アルゼンチン船長協会が2017年には100周年を迎えることからIFSMAを招待したいとの表明があった。
ISPSコード(国際船舶及び港湾施設保安コード」)のReview Conference
秋の理事会でISPS コード採択10周年となる2012年にReview Conference行い、船員の立場からこのコードが何をもたらしたのか見直すことが合意された。
そして2012年の秋の海上安全委員会(MSC)に合わせて開催したいと計画していたが、この秋の海上安全委員会はこれまでと違い月曜から金曜までの5日間であり、日曜日ないしは土曜日に開催するのは参加者動員の立場から実際的ではないため、11月にマニラで行われるアジア・パシフィックのマンニング・コンファレンスに合わせて開催することで検討することとした。
IFSMAはこの数年、このコンファレンスの前日に毎年ワーク・ショップを開催しており、手続きや準備に問題はないとしている。
今回のワーク・ショップは手始めとして、ISPSコードの問題点を洗い出すことを目的とし、
改めてIMOにて問題を提起する形にすることとした。
スピーカーとしてはThe Mission to Seafarersに参加してもらうことはもちろん、もともとこのコンファレンスを提案した日本船長協会も参加せねばならないだろう。
ペーパーを作成する段階で会員諸兄の協力を得て、ISPSコードの実態について調査するようなことも必要となるかと考えている。
IFSMA名誉会員
歴代のIMO事務局長はIFSMAの名誉会員としてIFSMAの活動を支援して戴いているが、本年1 月に就任した關水康司氏についても日本船長協会を通して名誉会員就任をお願いしていたところ、快諾を得たので6 月の総会に正式に提案することとなる。
そして、年内に名誉会員を招待し、IFSMAの活動につき忌憚のない意見や助言を戴くことを予定している。
IMO
IMOの委員会の模様は事務局長から文書で詳細な報告があったが、それとは別に職員のMr Ashok Mahapatra(Deputy Director,Maritime Training and Human Element Section, Maritime Safety Division)がゲストとして理事会に出席してくれた。
確か彼は
スリランカの出身だとおもうが、IMOでは長らく船員の教育・訓練問題、人的要因問題に取り組んでいる。
もちろんSTCW条約の専門家である。
2010年のマニラにおけるSTCW条約改正会議では筆頭事務局員を務めた。
Mr MahapatraはIFSMAのシンパで緊密な間柄であり、IFSMAのプロフェッショナリズムを高く評価してくれている。
多忙を極める彼は多くの時間を取れなかったが、IMOの人的要因を担当する部門として、今後下記の諸点にも配慮して活動して行きたいと記してくれた。
(1) 航海機器のUser friendly化の促進
操作する側の教育・訓練の重要性は言うまでもないが、それと同時に機器側にも改善の余地はある。
人間工学的な見地からさらに改善するように積極的に提案して行きたい。
(2) ILO海事労働条約とIMO STCW条約
海事労働条約も年末には発効条件をみたすのではないかとおもわれる。
双方に船内における労働時間と休息時間に関わる規定があるが、その解釈に齟齬のないようにし、現場に混乱を招かないように統一解釈などについて審議したい。
(3)マスコミ対策
コスタ・コンコルディア号の海難事故に関わるマスコミの報道は興味本位で船長をスケープゴートとし有ること無い事を書きたてる。
これは安全性のさらなる向上を追求する立場から言えば有害以外の何者でもない。
IMOとしてもマスコミ対策を考えて行く必要がある。
今回はもう一人のゲストがあった。SRI(Seafarers’ Right International)のExecutive DirectorのMs Deirdre Fitzpatrickである。
名前はディアドレと発音するのが正しいそうだ。
アイルランドではそれほど珍しい名前ではないとのことである。
彼女はITFの顧問弁護士として働いていたが、船員達があまりにも船員としての正当な権利について無知で、そのため不当な労働環境、あるいは不当な逮捕・拘留に晒されているのを見かねて、この新しい組織SRIの創立に積極的に参加したという。
現在船員にとって大きな問題は
① 船員の犯罪者扱い
② 船舶及び船員の放棄
③ 海賊
である。
SRIはまず、
① 船員の直面する問題の種類とその影響についての調査・研究
② 船員に対する基礎的な教育
③ 問題に対処するための船員を研修・訓練
の3 段階を考えているが、現在はまだ調査・研究の段階に留まっているとのことである。
これらの問題はIFSMAとしても重要事項と考えており、今後とも緊密に連携していくことを双方が確認した。
以上
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追記
本誌前号「月報 Captain」第407号 平成24年2月・3月号の「IFSMA便り」No.21、ページ29に西島弥太郎先生を京大名誉教授としたが、これはその後の調査で事実では無いようなのでここに訂正しお詫び致します。