第109回 高知県高知市立春野西小学校

(一社)日本船長協会事務局

高知県高知市立春野西小学校

船長母校へ帰る

10月19日、母の誕生日のお祝いに帰郷する事となった。
かねてより、母校の子供達に話をしてあげたいと考えていたので「船長母校へ帰る」企画に自ら手を挙げた。
春野西小学校の校舎は、広大な田畑の中に建っている。校舎の窓から外を見ると、小学生時代に見た風景と変わっていないので、40年前にタイムスリップしたかのようで懐かしい。
市内の小学校から、ここに転校してきたのは5 年生の春、それまでの自分は落ちこぼれの悪ガキで勉強には全く自信がなかった。それが転校翌日の算数の授業で、担任の松木先生に褒められたことがきっかけで、突如勉強ができるように。今回、5 年生を対象にしたのは、こうした自身の経験から、この年代の子供達の心は大変柔軟で、無限に伸びる可能性を秘めていると思ったからである。
前日、母校を訪問し矢野校長にご挨拶、その後、担任の八木先生と榎並谷先生、そして長年の友人、元機関長の梅原さんに手伝ってもらい授業の準備を行った。また、教室の後半分のスペースに、海・船・船員・世界の人々を身近に感じてもらうべく多数の写真を展示した。
授業当日、80歳の誕生日を迎える母が授業を参観したいと言い出し、校長先生にお願いしたところ快く了承してくださった。考えてみれば、これまで母に船や海での話をじっくりとしたことはなかったし、何よりの親孝行となると思った。
当日の授業は5 年生45名が対象で、終始賑やかで楽しいものとなった。40年振りに船長として戻ってきた自分への子供達の精一杯の歓待は嬉しくてならなかった。
授業は午前の2 時限分を使って行われたが、第一部は山本常務理事の話と船長協会作成のDVD『海と船』の鑑賞、休み時間を挟んで小職の授業となった。
授業では、小学校時代の思い出から始まって、何故船に乗ったのか、初めての船で何を感じたのか、今世界の海で何が起こっているのか、また、船長としての経験から子供達に伝えたいことを熱く語った。一言ひとことに純粋に応えてくれる確かな反応を感じることができた。
せっかくの企画なので、地元テレビ局や新聞社にも取材をお願いしたいと伝手をたどったところ、高校時代の友人がその分野で活躍していることを知った。早速電話したところ、非常に面白い企画だと取材を心よく引き受けてくれた。
その日の夕刻、テレビ高知のイブニングニュースで約2分間授業風景が放映された。
高知新聞でも11月11日の子供向けの紙面でその模様が掲載された。
後日届いた、感想文を掲載した学級通信の一部を以下に紹介させていただき、授業の雰囲気を感じていただきたい。

* * * (学級通信) * * *
先週金曜日に、春野西小学校の卒業生である近森さんに、日本郵船での船長としての貴重な経験をお話ししていただく授業を行っていただきました。
今回の通信では、みんなの感想から、近森船長がみんなにどんなことを伝えたかったのかを紹介したいと思います。
『はじめ船長さんたちが入ってきたとき、帽子と制服を着ていたので、すごくかっこよかったです。近森船長が、心に残る一言を言ってくれました。それは、「他人と過去はかえられないが、自分と未来は変えられるということでした。それは、私達にも関係するなと思いました。』
『ぼくはこの勉強で、仲間の大切さやチームワークの大切さが分かりました。船長さんの話では、やっぱり、一人ひとりがあきらめないことや、大きな船を動かすには一人ひとりの力がいるから、チームの一人でも欠けたら、船は動かせないということや、自分の役割がきちんとあって、責任が重大なんだなあということが分かりました。ぼくにもきちんとした役割があるから、そう簡単に何事にもすぐあきらめない心がいるんだなあと思いました。』
『船長さんはやっぱりかっこいいと思いました。船長は、乗組員の命を預かっているので、責任重大です。だけど、そのプレッシャーに負けず、やっていけるのは、やっぱりかっこいいです。船にはつらいことばかりではなく、楽しいこともあるので、それを乗り越えていけるのかなと思ました。ぼくもプレッシャーに負けない人間いなっていきたいです。』
『船長とは、タイタニックのように、船が重大事故にあっても、みんなが安全に救出できたのを確認してから、自分も逃げるのだそうです。私は、自分の命より他人の命を先に考えるなんて、すごいなあと思いました。近森船長は、この仕事をほこりに思っているそうです。私も大人になったら、ほこりに思える仕事をしたいです。』
『最初に船長さんに会った時、「うわあ、かっこいい」と思いました。そして、船長さんの話を聞いて、心の中に残しておこうという場面がありました。その一つは船長さんが言っていた、「夢を持ち、その夢をかなえられるように努力すること」この言葉で力がわいてきました。2つ目は、海を大切にすることは、豊かなくらしを守ってくれるということです。3つめは、「今がつらくても、最後までがんばろう。必ず幸せがくるから」そして、「信じる事」最後は、「しっかり周りの景色をみながら前へ進んでいくこと」この3 つを心の中にずっと残しておきたいです。』
『船長が、夢について言ってくれました。ぼくはまだ自分の夢がありません。けど、今日船長さんの話を聞いて、夢について考えるのもいいなあと思いました。』
『お話の中で、人生は航海に例えられる、待てば海路の日和ありという言葉で、人生はつらいこともあるが、いいこともあります。私は先輩が勇気をくれたように思いました。』
* * * * *

感想を読むにつけ、子供達の吸収力の高さ、感受性の豊かさを感じてならない。
授業の準備にあたり、母校卒業後40年間の船乗り人生をじっくりと振り返ることができた。未来を担う子供達に、海で学んだ事や体験を伝え、エールを送ることで、自分自身もまた大きな励ましを受けていることに気がついた。今回の企画を遂行するにあたり、お世話になった皆様に心より感謝するとともに、今後も機会ある度に多いに語っていきたいと思う。

(日本船長協会 山本丈司 記)

校舎全景 近森・山本両船長
講演中の近森船長 講演風景

高知県高知市立春野西小学校の感想文

生徒達の作文////   高知新聞/


LastUpDate: 2024-Apr-25