平成23年8月23日、衆議院「海賊・テロ・特別委員会」に日本船長協会会長が参考人として招致されました。
【意見陳述】
日本船長協会会長小島茂です。よろしくお願いいたします。
本日はこういう場に呼んでいただいて発言できることに感謝いたします。
本日は、私は船で働く現場の船長、乗組員の声を代弁ということで発言したいと思います。
まず、アデン湾に派遣いただいております、護衛艦に乗船している自衛官の方、海上保安官の方、ジブチの基地で働かれている隊員及び関係者の方々に深く感謝申し上げます。
さて、船長は船では最高責任者です。安全運航、貨物の安全管理および乗組員全員の安全を守る大きな責任を持っております。
乗組員は船では家族であり、その乗組員一人一人も国に家族がいます。
ただ今、芦田会長も述べられたように海賊の活動域が最近急激に広くなってきており、悪質、辛辣、武器もより威力のある精度の高い物ものになってきております。
現在、この時期アラビア海は強い西風が吹くモンスーンシーズンになっており、これが、6月頃から10月頃まで続き、うねりも高くなりだいたい5m-6m位までになります。
普通ですと、漁船とか小型船は沿岸から遠くまではいけない状況なのですが、海賊の件数が増えております。減っておりません。
これは、先ほどお話しがありました通り、拿捕された大型船を母船として使用し、活動海域が広がったために海賊の行為が減らない。と私は思っております。
母船として拿捕された船員は、人質としてやむを得ず、不本意ながら運航作業をさせられていると言うのが現実です。
モンスーンシーズンが終わった10月頃、また海賊行為が増えるのではないかと危惧しております。
海賊行為の増加および襲撃エリアが広域範囲に広がっていると言うことから、より効率的に監視、追撃できるように、そして多くの船を守って頂くために、是非とも自衛艦の追加派遣、または補給艦の派遣をお願いしたいと思います。
日本人船員を含めて、乗組員皆頼もしく思うし、国に残してきている家族の心配も和らげると考えます。是非ともよろしくお願いいたします。
実際、襲撃を受けている船からのVHF船舶無線から、護衛艦に助けを求めている悲痛な声が頻繁になっていると聞きます。
私は船から離れて11年になりますが、現役のとき、スリランカ コロンボ港沖で沖待ちをしている時、同じような経験をしました。私はその時、錨は入れずエンジンは停め、潮に流していたのですが、この地域はかなり襲撃が多いと警告は受けていました。
インド系のタミール人のゲリラが多かった時なので、本船はライトをたくさんつけて、見張り員を増して、さらに定期的な巡検をしておりました。
ミッドナイト頃に、近くにいた船からVHFで、ポートオーソリティーに「今、武装した賊が乗り込んできた。助けて欲しい」と言う連絡をしていたのが聞こえてきました。
ポートオーソリティーは「そのままいろ、今からスリランカの海軍が向かう、ただし抵抗はするな」と言って、その後応答は無くなりました。
また先日、ある情報ソースから、ソマリアの海賊に人質になっているデンマークの船長、機関長、一等航海士、甲板長が機関銃を突き付けられ、悲痛な悲壮な訴えかけをしている映像がありました。
・ 今年の1月から囚われている。
・ 非常に暑くて食事もとれない。
・ 衛生環境が非常に悪い。
・ 精神的にまいっている。
・ 家族と一度も連絡が取れない。
・ お願いですから身代金を払ってください。自由にしてください。助けてください。お願いです。
という、映像でした。海賊の非常に卑劣な行為でした。
武器もかなり強力化しておりまして、聞くところによるとイスラム原理主義者への上納金との引き換えに武器を手に入れているようです。
先ほど芦田会長が言われたように、本船も数々の対策を行っています。
厳重な見張り、サーチライト、夜間暗視装置。レーザーワイヤー、普通の有刺鉄線よりもっと触るとすぐ手が切れてしまう、 髭剃りの刃のような物で、船の周りに付けております。
高水圧の放水器、消防の放水のような高圧です。
さらに、弾が当たった時、ガラスが飛散しないよう飛散防止のテープをガラスに貼っております。防弾チョッキ、防弾ヘルメットも用意しております。
先ほども出ましたが、シタデルと言う、エンジンルームや操舵機室に囲いをしっかり作って、内側からロックできるようにし、族に侵入された時、全員がそこに立て篭もるようにしたものです。だいたい3日間位をめどに、そこに立て籠れるように通信装置等もしっかり設置して、護衛艦の到達を待ち、抗戦の際にはそこに隠れているようにします。
これによって、かなりの効果が表れている船も何隻かあります。
操船の方については、スピードのある船は逃げられるのですが、あまりないような船についてもできる限りスピードアップし、ジグザグ走行して振り切るということをしております。
このエリアは、漁船もかなり出るのですが、海賊船が漁船の中に紛れていたりします。
このアラビア海は、本来なら一息入れられるエリアなのです。
私もペルシャ湾に何度も行ったのですが、ペルシャ湾の暑い中で積み荷をして、ホルムズ海峡をやっと出て、スリランカの沖くらいまで、また、ヨーロッパからのコンテナ船もスエズ運河を通過して、紅海を抜けまして、アデン湾、ソコトラ島を越えてのアラビア海へ、その後マラッカ、シンガポールと難所が待っているだけに、本来なら一息入れるところなのです。
この一番本当にほっとする海域が実は一番注意しなくてはならないエリアになってしまいまして、非常に船も大変な状況になっております。
とにかく小さな船を見ると漁船なのに海賊船と考えてしまい、ストレスがたまっています。
週刊TIME 8月第1週に、ソマリアの海賊にTIMEの記者がリーダーと会って、話を聞き出した記事がありました。
ソマリアの若いジェネレーションは、何人捕まっても次から次に海賊になりたいと控えていると言うのです。このリーダーは「我々がどんなことをされても、この海賊行為はやめないぞ。」と言っております。
皆さんご存じかとは思いますが、ソマリアの沖では他の国の漁船が魚を乱獲したり、産業廃棄物をドンドン捨てまくっておりました。
リーダーは、「これは非常に大きな罪だ」と言っています。
母船として捕まえた場合は、乗組員に「命をとられるか、命令に従うか、どっちだ」と「抵抗する場合は即殺すぞ」と脅しているそうです。
ソマリアという国をこれから本当の国らしくしていくには、どうしていくのが良いかということは悩ましい事なのですがやっていかなくてはなりません。
先ほど芦田会長も述べられている通り、日本の経済は船なくして成り立ちません。
その船を安全に運航するのは我々船乗りです。
ロケットランチャーをいとも簡単に発射する等、凶暴化している海賊は現場の船長、乗組員にとって非常に脅威です。
彼ら乗組員の命を守るためにも、ほとんどの船長の意見、要望は自衛出来る装備をもったガードの乗船です。
乗組員も毎日のストレスは非常に大変です。是非日本籍船への武装ガードを乗せられるようにお願いしたいと思います。この場合、法律の整備、改定改正が必要になるかとは思いますが、早急な対応をお願いしたいと思います。
外国人船員のなかには、ソマリア沖へ行く船には乗りたくないと他の国の会社に転じて行く船乗りもかなり多いです。
ソマリアの海賊行為の根本的原因は、貧困と打続く部族間内戦、統一政府の確立がすすまないことに有ると思います。
自助努力もありますが、国連を通して、一日も早く、国際的な取り組みの強化を進めていただきたく思います。
日本船長協会は平成十二年から「船長 母校に帰る」と言うことで、「子供たちに海と船を語る」という活動を進めてきました。今年で11年目になります。
全国の小学校、中学校を訪問しまして、生徒に「海」と「船」のことを話して参りました。海と船に興味を持ってもらう活動です。
すでに全国で95校を周り、約19、000人の生徒に聴いてもらいました。
その講義の後に質疑応答をするのですが、必ず「今でも海賊はいるのですか?」という質問を受けます。
「残念ながらいます」と答えていますが、「しかし、君たちが船に乗るころには、海賊は居なくなっているから安心して勉強してください」と説明しています。
これは本当に実現させないといけないと思います。
我々の役目だと思います。
最後にもう一度要望を申し上げます。
(1) |
海賊襲撃エリアの拡大への対応として、護衛艦の追加派遣を、または補給艦の派遣をお願いします。 |
(2) |
日本籍船への武装ガード乗船実現化。 |
(3) |
国際的に海賊問題の根本的解決にむけてIMO、国際連合を通しての活動を積極的に進めて頂きたく思います。 |
以上です。有難うございました。
【意見陳述後、「海賊対処・テロ防止特別委員会」委員より、以下の質問があった。】
Q: |
相手がロケットランチャーを持っている中での籠城でもうまくいっている例があると言うが具体的な例を教えてもらいたい。 |
A: |
具体例は押さえていないが、何例か籠城、シタデルに全員が入っている時に通信ができていたので軍艦と連絡が取れ即来てくれた。
通信で「軍艦が来てくれる」事が確認できていたので安心しながら籠り、乗り込んでもらって対応したと言うことを聞いている。 |
Q: |
武装ガードの効果についてだが、民間人が武装してガードをした場合にその効果はどの程度あると考えるか? |
A: |
民間人がどのような感じで乗るかまだイメージできない。まずそれよりも公的な武装を先に考えていただきたい。
公的ガードであれば身元もしっかりしているし、現場での対応も落ち着いてやっていただけると思う。
乗り組の気持ちを考えれば武器で来るものを武器で制圧してもらえるのはありがたいと考える。 |
Q: |
実際犯人に対峙したり、交渉したり等の判断は船長の重大な任務だと思うが、国際的にこれらの対応するマニュアルでもあるのであろうか? |
A: |
船員法の趣旨では乗組員が他の人に対して危害を加えた場合の船長の対応が書いてありますが、海賊等外部からの攻撃に対することは書かれていない。
このように、現状法律等では対抗手段がないが、IMOの推奨しているBest Management Practiceという海賊対策マニュアルがあるのでこれで対応している。 |
Q: |
本来船長がこれら事態にも対応できる権限等があってしかるべきであるので、我々でもって本件検討する。
さて、海賊はテロリストとつながっていると聞おり、海賊行為で得たお金がテロリストに資金として流れているとも聞く。
現場では、テロリストと海賊とは密接につながっているようだが、現地では海賊とテロリストとの見分けはつくものであろうか? |
A: |
現場ではテロリストも、海賊も見分けはつかない。 |
Q: |
子供たちの前で船の話をされていると言うが
① 日本人の船員が活躍している海域
② 最近の子供たちが感じている海に関することについて聞きたい。 |
A: |
① 日本人船員は世界中どこにでも行っています。しかしながら問題点として絶対数が少なくほとんどが混乗となっております。
船長と機関長だけが日本人であとは外国人というのがあります。
② 平成12年に船長協会の名誉会員の柳原良平さんの発案で船長が学校に行って子供たちに海、船、貿易の話をする取り組みをしている。
1時間程基本的な話とDVDを見せ、その後船長の経験談等を説明して船は面白いと話をしている。
子供たちはかなり海離れが進んでいる。
私たちの時代は臨海学校と言うのがあって海の経験を得たものだが、最近は子供の安全のために小学校では臨海学校辞めている。少子化の影響からか海に行くことを父親母親が止めているのが現実である。
しかしながら、子供たちは海、船に大変興味を持っており、船乗りになってみたいという感想文もある。 |
以上