IFSMA便り NO.33

訪船の手引きと海上労働条約

 

船員のための福祉関係者の訪船の手引き

 もうずいぶん昔の話だが、定航船で東アフリカ航路に乗船していたころ、ケニヤのモンバサやタンザニアのダルエスサラームに寄港した折に上陸の機会があれば何はさておきシーメンズ・クラブを訪れた。そこは清潔でそして何よりも安心できた。ビールもお土産の値段もぼられることもなく安心だった。日本に送る絵葉書もここから送れば間違いなく配達されるとの確信もあった。

 そんな安らぎというか安心感を神戸に寄港する外国の船員にも味わってほしいと思い、ロンドン駐在を終えて帰国するにあたり、ロンドン市内にあるThe Mission to Seafarersの本部を訪ね、旧知のケン・ピータース司祭に神戸のシーメンズ・クラブである神戸マリナーズ・センター(Kobe Mariners Centre 以下KMC)を紹介してもらった。実際に訪船するチームにも参加することを希望したが、危なっかしくてマイクロバスを運転してもらうことは出来ないとやんわり断られ、KMCの運営に関わることとなった。KMC は日本の宗教法人であるから、役員を任命し、運営管理委員会を開催し、予算/ 決算を承認し、また宗教法人規則の改廃や各種の届け出などをしなければならないので、こうした作業に関わっている。

  その一つの仕事が今回紹介する「福祉関係者のための訪船の手引き(以下「訪船の手引き))」” Ship Welfare Visitor Course” の翻訳である。本稿では「訪船の手引き」としたが、これは訪船活動をする司祭やボランティアに対する2 日間にわたる講習のためのテキストである。原著は英国のMerchant Navy Wel-fare Board(商船船員福祉委員会)が英国の港湾事情を念頭に作成したものでページ数で80ページあまり、約22、000語である。翻訳と言ったが正確に言うと原著をベースに日本のボランティアの為に書き直し、新たな教科書を作る作業と言える。

 The Mission to Seafarers は全世界で多数のシーメンズ・クラブを運営しており、クラブの司祭や多くのボランティアが訪船活動を行っている。この「訪船の手引き」はこうした訪船者の為に海運や船員、船舶に関する基礎的な知識、安全対策、訪船の目的などについて丁寧な説明をしている。かなりの時間を費やして翻訳し、あるいはKMC のボランティアが下訳をやってくれた草稿を監修し、やっと作業を終えたところで、2006年のILO(国際労働機関)の海上労働条約がいよいよ発効することになり、原著は新たに「海上労働条約」の章をもうけ、その他の部分も大幅に書き換えられた。このためまた一から始めることになり結構大変な作業であった。

 さて今、なぜこの「訪船の手引き」について寄稿するのかといえば、これを読まれる会員諸兄はシーメンズ・クラブを利用する機会は少ないかと思うが、部下のフィリッピン人を始めとする外国人船員にとっては利用価値の高い福祉施設であり、とりわけインターネットへのフリーアクセスが出来る施設は船員にとって重要である。パイロットの皆さんのお話でも乗船した本船の船長から当港にシーメンズ・クラブはあるのかと聞かれることも多いという事実がある。またこの「訪船の手引き」で説明されている海上労働条約の概要は要領よくまとめられていて判りやすく、何かの参考になるのではないかとも思われる。訪船する司祭やボランティアはこのような講習で一応の海運や船員に対する知識を身に付けており、乗組員の仕事の邪魔をせずに、ただ何かのお役にたてばという極めて純粋な気持ちから活動しているので、こうしたボランティアが訪船したなら、快く応対してやって欲しいと願うからである。そうして何よりも重要なことは、シーメンズ・クラブは船員に利用されなければ存在できない、ということである。可能な限り、船員がシーメンズ・クラブを積極的に利用し、かつ支援して欲しいのである。船員のニーズは変化している。例えば、宿泊施設を備えたシーメンズ・クラブの必要性は少なくなったが、港に近接した小規模な船員センターへの要望は強くなっている。

 KMC はこうしたニーズの変化に応えるように常に努力しているが、多くの関係者の協力がなければ成果は望めない。ぜひ機会を作って覗いて欲しい。会員諸兄の積極的な協力を期待する次第である。

 

神戸港におけるThe Mission to Seafarers

 この「訪船の手引き」によると船員のための世界中にある船員福祉事業を行っている組織・団体は数百にのぼるそうだが、その多くはキリスト教関係である。かつて中東の港でイスラム教のシーメンズ・クラブを見たことがある。飲み物やスナック、お土産などをならべ郵便の取り扱いなどもしていたが、ちょっと入りがたい雰囲気であった。

 キリスト教関係の組織・団体の多くは国際キリスト教海事協会(ICMA)に加盟している。現在30近くの組織・団体が加盟している。その多くは北・西欧及びアメリカであるが、韓国の団体もある。このICMA はIMO の諮問機関にもなっている。IMO で諮問機関として指定するか否かの審議があった時、ある船員団体関係者から特定の宗教の団体を国連機関の諮問機関として認めることについて異議もあったが、船員全体の福祉から見れば、このような異議は不当に思えたことを覚えている。

 ICMA の加盟団体のなかで大きいのは英国聖公会のThe Mission to Seafarers とカトリック系のApostleship of the Sea、アメリカのプロテスタント系のSeamen’ s ChurchInstitute (SCI) of New York & New Jerseyで、ここのCenter for Seafarers Rights は船員の人権擁護のために活発に活動している。

 KMC についてはこれまでに書いたこともあるので紹介を省くが、興味のある方は

  http://www.flyingangelkobe.org/index.html を参照願いたい。

 なお、昨年の来訪者は例年よりちょっと少なく3549人で月平均約300人である。これは実際に来訪者名簿にサインした船員の数で、実際にはこの数の2 割程度は多いのではないかと見込まれている。国籍別ではフィリッピン人が2092人で59%、英国人が348人で10%、東欧の船員が323人で9 %、中国人が233人で7 % 弱となっている。以下インド人、その他のアジア人、ミャンマー人などとなっている。英国人が多いのはKMC の司祭2 名が英国人であり、また神戸在住の英国人の溜まり場となっているためでもあろう。

 

海上労働条約

 少し長くなるが、「訪船の手引き」の中の海上労働条約の章を一部引用してみたい。これは決定稿ではなく、時間があればさらに推敲を行いたいと思っている。
 また、紙数の関係もあるので、会員諸兄がよくご存知の事項は省き、普段あまり目にしない福祉関係団体に関する事項の紹介にポイントを置いてみたい。

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海上労働条約について

 2006年2 月23日、ILO はその第94回国際労働総会(海事総会)において2006年の海上労働条約を採択した。この条約はグローバル化が進む海上部門におけるディーセント・ワーク(decent work)『公正で好ましい条件での仕事』を確保するために労働条件を定めたものである。この海上労働条約は2012年の8月に発効基準を満たし、2013年8 月に発効した。
 この海上労働条約はILO が1920年以来採択した約72の海上労働関係の条約及び勧告を統合し、最新化したものである。この条約は船員労働の最低限の労働条件を定めたもので雇用、労働及び休息時間、居住設備、リクリエーション施設、食料及び供食、健康保護、医療サービス、福利及び社会保障などの規定が含まれる。
 海上労働条約はIMO の重要な三つの条約、
すなわち
 1974年の海上における人命の安全のための国際条約 (SOLAS 条約)
 1978年の船員の訓練及び資格証明並びに当直の基準に関する国際条約(STCW 条約)
 1973/1978年の船舶による汚染の防止のための国際条約 (MARPOL 条約)
 と並んで質の高い海運を支える法律体系の4 本の柱の一つに数えられる。
 このように海上労働条約は海運関係にとって非常に重要な条約なのである。

 

条約の構造

 条約は3 層構造になっており、条約条文、規則そして規範(コード)から成り立っている。
 条文及び規則は条約の中核となる締約国の権利、原則そして義務を規定している。
 規範(コード)は規則を実施するための詳細な要件を定めている。そしてこの規範(コード)は規範A(基準)と規範B(ガイドライン)からなっており、規範A は強制要件、規範B は勧告(ガイドライン)である。
 規則及び規範(コード)は5 章で構成されている。
第1 章 船内で労働する船員の最小限の要件
第2 章 雇用条件
第3 章 居住設備、娯楽設備、食糧及び供食
第4 章 健康の保護、医療、福祉及び社会保
 障による保護
第5 章 遵守及び執行
この条約には三つの重要な目的がある。
 a)条約条文と規則を通して、権利と原則を確立すること
 b)コードを通してこれらの権利と原則を締約国が執行するにあたり十分な柔軟性を確保できるようにすること
 c)第5 章によりこれらの権利と原則が適切に遵守され執行されること
 締約国が条約を執行するにあたり、条約をそのまま執行することが困難な時は、「実質的に同等」な措置 “substantive equivalence” を以って執行することが出来るが、この措置をとる場合は船主団体と船員団体との協議が必要である。
 規範B はガイドラインであるから締約国は拘束されるわけではないが、この規範B に相当の考慮を払わなければならない。

 

居住設備及び娯楽設備

 海上労働条約は船員が適切な居住設備と娯楽設備を与えられるように、船舶の大小や船種などを考慮してオフィサー及び部員の為の寝室のサイズの基準を定めている。食堂、衛生設備や病室設備などについても基準を定めている。
 基準を定める目的はもちろん船員の健康と福祉を推進するためである。この基準は海上労働条約が発効した後、建造された船舶に適用され、それ以前に建造された船舶にはこれまでの基準が適用される。
 船員への郵便物の集配を効率よく行うように努めなければならない。
 保安上の手続き及び国内法の許す範囲で、船員の配偶者、親戚あるいは友人の船内への訪問の許可を与えるよう考慮するべきである。
 可能であり、また妥当であれば船員が時には、その配偶者を同乗させ航海が出来る機会について前向きに検討するべきである。
 船長若しくはその代理人は船員の居住区の定期的な検査を行い、清潔度などをチェックしなければならない。検査の結果はこれを記録して保管しなければならない。

 

船内及び陸上の医療

 船員は船内及び陸上において速やかに医療サービスを受ける権利を有する。実行可能な場合には、寄港地に於いて、資格を有する医師又は歯科医師を遅滞なく訪問する権利がある。
 原則として医療サービスは無料であるべきである。
 船舶は必要な医療器具及び薬品、そして医療設備と適切な訓練をうけた人員を配置しなければならない。
 締約国は船内における健康保護及び医療サービスが単に傷病を負った船員の治療に止まらず、疾病の予防、すなわち健康増進や保健教育を含むべきである。
 全ての船舶は、医療箱、医療機器及び医療手引書を備えておかねばならない。
 100人以上の人員を収容し、かつ通常3 日間を超える国際航海に従事する船舶には医師を乗り組ませねばならない。
 医師が乗り組まない船舶には、医療及び薬品の管理に責任を有す船員を少なくとも1 人乗船させ、または応急医療を行う資格のある船員を1 人乗船させなければならない。なお、これらの資格はSTCW 条約の定めるところによる。
 主管庁は海上における船舶に対する無線又は衛星通信による医学的助言が1 日に24時間利用することが出来るようにしなければならない。これらの医学的助言及びその通信料はどの国の船籍であれ、無料でなければならない。

 

健康及び安全の保護並びに災害の防止

 船員は職業がもたらす健康被害から保護されなければならぬと共に衛生的で安全な船内で生活し、労働し、また訓練される権利がある。
 職業上の健康被害及び船内における安全についての情報が船員に与えられなければならない。また必要な保護具、保護装備は無料で船員に供給されねばならない。
 5 人以上の乗組員がいる船舶では船内安全委員会を設け、規則に基づき必要な権限をもった安全担当者を指名しなければならない。船内には安全担当オフィサーがいなければならない。安全担当オフィサーは船長であっても差支えない。

 

陸上の福祉施設の利用

 船員は、寄港地に存在する、あらゆる陸上福祉施設を簡単に利用する権利を有する。
 締約国は、船員が地域に存在する、陸上福祉施設を簡単に利用できることを保証する。福祉関係団体はこうした状況に相違が無いことをモニタリングする。また締約国は福祉施設の開発も促進する。
 十分な福祉施設とサービスが提供され、船員に対して適切な保護が行われるよう方策が取られなければならない。こうした施策は、船員の安全、健康、余暇活動に関する特別なニーズ(特に海外や紛争地域において)が考慮されなければならない。
 福祉施設はすべての船員に例外なく利用可能でなければならない。
 福祉施設には以下が含まれるべきである:
・必要なミーティングルームおよびレクリエーションルーム
・スポーツ施設および屋外施設
・教育施設
・宗教施設および必要に応じて個人的なカウンセリング用の施設
 情報の周知には以下が含まれるべきである:
 ・寄港地の一般公開施設
 ・交通
 ・福祉
 ・娯楽
 ・教育施設
 ・礼拝の出来る場所
 ・船員専用施設
 港湾内の適当な場所から都市部へのアクセスのために、適切な交通手段が、適切な金額および時間帯で船員に利用可能でなければならない。
 福祉施設およびサービスの監督の手配を行う委員会には船主の代表及び船員団体を含めなければならない。
 締約国は、船内および陸上福祉センターにおいて、船員が映画、書籍、新聞やスポーツ用品などを自由に利用できるための措置を取らなければならない。
 締約国はまた、例えば主官庁間での協議、リソースの蓄積、スポーツ大会や福祉セミナーの開催などを行い、相互協力して船員の福祉を促進しなければならない。
 主官庁は、船主および船員が、違反することで自由を束縛される可能性のある特別な法律や習慣に関する知識を得るための適切な措置を取らなければならない。
 主官庁は、港湾施設内や通行道路において、船員の安全のための十分な照明、標識や定期パトロールを提供しなければならない。
 外国の港湾において船員が拘束された場合など、船員の保護のために大使館/ 領事館への連絡など迅速に対応できる手段などが確保されていなければならない。
 海上労働条約の第4 章、規則4.4のガイドラインB4.4.6第5 項は、港湾当局および船上の責任者が、船が到着後、船員が早期に上陸できるように努力をすることを求めている。
(条約を批准した締約国はガイドラインには拘束はされないが、条約において求められる責任を果たすよう、配慮が求められている)。
 国によっては「セキュリティ上の理由」を挙げて、船員の上陸を許可しない場合がある。
しかし、入国管理審査を終えた船舶および船員に対し国際船舶港湾施設保安コード(ISPSコード)」は上陸の障壁となってはならない。
 実際、ISPS コードは「船と港湾安全計画を承認する政府は、船舶乗組員が日常的に船上で生活しているため、上陸し、陸上船員福祉施設を利用する必要があることを認識すべきである」としている
 さらに、港湾施設保安計画には、「船員の上陸や交代を容易にするための手続き」に取り組むことを求めている。
 また福祉関係者および労働組合職員が港湾から船にアクセスできるよう規定されている。

 

福祉委員会

 2006年の海上労働条約は船員福祉委員会および港湾福祉委員会が必要に応じて、国、地域、港湾のレベルで設立されることを勧告している。
 これは義務ではないが、全ての加盟国は勧告事項への適切な配慮がなされたことをILO に示さなければならない。

 

港湾福祉委員会

 実際面では港湾福祉委員会は、(英国で既に実現されているように)全ての地域と港湾をカバーすべく設立されるべきである。各委員会は、地域内の現役および退役船員とその家族のための、福祉サービスや施設を提供する委員会メンバーの活動を、連携、援助すべく設立される。
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 以下に、訪船者マニュアルに記載されているQ & A の幾つかを紹介しよう。

 

船員の権利が明らかに侵害されたと思われる機会に遭遇した場合、どうしたらよいか

 訪船する福祉関係者は、にわかに海上労働条約や国際法、あるいは船員雇用契約の諸条件に関する専門家になることを期待されているわけではない!
 この講習はそのような専門家を養成するのではなく海運及び船員に関する一般的な背景となる知識を提供することを目的としている。
 訪船する福祉担当者は、常に、自身の能力と権限の範囲で行動するよう求められている。
 多くの場合、通常ではない対応が求められる状況では、最初にとるべき行動は所属する組織の同僚からのサポートとアドバイスを得ることである。こうした行動の結果、必要に応じて関連する専門家(海員組合、ITF、船舶代理店、港湾当局や旗国当局、など)に連絡を取ることになるケースが多い。
 上記を踏まえた上で、訪船者には以下の点が有益な情報となると思われる。

 

それぞれの船舶にどのような基準が適用されるのか、どうしたらわかるのか

 海上労働条約が適用される全ての船は条約のコピーを保持しなければならない。条約には船員が利用可能な最低限の基準が規定されている。全ての船員は各自の詳細な雇用条件を記載した雇用契約書のコピーを保持していなければならない。
 500GT あるいはそれ以上の国際航路に従事する船舶は、旗国の発給する海上労働証書および海上労働適合申告書を所持しなければならない。
 これらの文書には当該船に対する基準およびそれに適合するための方法が詳細に規定されている。これらの文書は船内の見やすい場所に掲示されなければならない。

 

誰が船員の権利の保障と労働基準が維持されることについて責任を持つのか

 海上労働条約では、履行に対する主な責任を旗国と船主、すなわち船の運航に責任ある個人或いは会社(必ずしも法的所有者とは限らない)と定めている。船の乗組員の雇用契約は複雑で多くの異なる雇用者が含まれる場合があリ、それにともない契約の責任の一部が委譲されている場合もあるが、最終的には個人あるいは一つの会社が全体の責任を負う。
 500GT あるいはそれ以上の、国際航路に従事する船舶の場合、こうした情報は船の海上労働証書に記録される。頻繁な記載が必要な、例えば食料や供食に関する検査の規定に関する責任などは、船長に委譲され船長自身、若しくは船長の権限のもとに他の担当者によって、執行される場合がある。
 海上労働条約の第5 章では、旗国および寄港国の遵守規定や執行規定の詳細が定められている。例をあげると、条約が適用される全ての船舶に対して行われる検査の詳細などが含まれる。英国の例では、こうした検査の管轄責任はMaritime and Coastguard Agencyにある。
 船内で問題があると思われる時に、どのような手続きは踏むのかは訪船者が所属する各組織が決定することになるが、以下を考慮の参考とされたい。

 

一人もしくはそれ以上の船員に問題と思われる事態が発生した時、どうすればよいのか

1 .問題の詳細を明らかにすること
 問題が何であるかを正確に把握し、それが例えば、単に誤解やコミュニケーション不足に基づくものではないことを確認すること。船員が同意すれば、本人の所属する部の責任者に話をするのも良い。例えば、ある船員が本当に治療のために自分自身で医療費を支払う必要があるのか、あるいは単に手続きを誤解しているだけなのか。
2 .船員の雇用契約を確認すること
 船員の雇用契約が特定の問題を対象としているかどうかを確認し、契約当事者も確認すること。例えば、本人が所定の時期に賃金の支払いを受けていないと主張している場合、支払いに関する雇用契約を確認すること。
3 .船上苦情処理の手続きが行われているかを確認すること
 すべての船舶は、合意された船上苦情処理手続きを定め、船員にその書類のコピーを渡さなければならない。*
 これには、船員の苦情申し立ての方法とその内容調査の方法が明示されている必要がある。こうした手続きが可能で、かつは、それが守られているかどうかを確認すること。苦情がまだ手続きに従って調査されていない場合、最初のステップは、この手続きが適切に行われ、文書化されていることを確認することである。しかし、場合によっては船員が不当に処罰されることを恐れ、こうした手続きを避ける場合がある。こうした場合は、強制はできない。目的は、可能な限り初期レベルで苦情を解決することである。しかし、すべての場合において、船員は船長を始め、必要であればMaritime and Coastguard Agency**を含め、外部当局に直接苦情を訴える権利を持つ。
 海上労働条約の非締約国の船を含めて英国港湾での英国籍以外の船舶の場合でも、調査に必要とされる海事当局に苦情を申し立てる船員の権利が依然として存在する。
*海上労働条約の第5 章1.5規則は、船内における苦情手続き、第5 章2.2規則は陸上における苦情手続きを定めている。
**日本では国土交通省運輸局/ 運輸監理部
4 .陸上でのフォローアップ
 引き続き船員の雇用条件/ 労働環境で更なる調査が必要な問題があると感じる場合は訪船者の所属する組織の責任者や本部に状況を報告すべきである。彼らは、たとえば地域のITF 検査官または当該地域の主管庁(英国ではMaritime and Coastguard Agency)に連絡するなどの必要な措置を取るであろう。問題が雇用契約/ 労働協約によって解決できない場合は、締約国は条約の基準の遵守を確認するための執行力を持つ。

 

(一社)日本船長協会 副会長 赤塚宏一

 


LastUpDate: 2024-Dec-17