IFSMA便り NO.57

「海上自律運航船」に関する船員の意識調査
~Maritime Autonomous Surface Ships( MASS)~

(一社)日本船長協会 副会長 赤塚 宏一

 

1. はじめに

 最近の海事関係の情報紙/ 誌で自律運航船について触れていないものはないように思われ、その実現性は近いものと考えられてきた。しかしここにきてやや後退を示唆する動きも出てきている。
 LRO ニュースによれば「自律運航船に早くも逆風?」としてBloomberg の2 月16日付の記事を紹介している。すなわち「マースクのCEO は、同社はこれまで船舶の自動化を極限まで追求してきたので、これ以上船員を削減するのは困難であり、仮にさらに船員を削減したとしてもコスト削減効果は低いし、無人化船の技術が開発されたとしても、港湾内のタグボートなどの小型船などには適しても、大型コンテナ船を無人で運航することが認められることは近い将来、安全規制上予想し難く、同社として無人コンテナ船を追求する意思がないことを表明した。
 自律運航船開発で最先端を走ってきたロールスロイス社も、同開発部門の人員を4200名削減しても採算に乗らないので、1 月に軍事部門を除く民用自律運航船に関する事業を売却することを決定している。」
 また3 月13日付のLloyd’ s List でICS(国際海運会議所)のHinchliffe 事務局長は自律船の議論が船主や運航船社ではなく、もっぱらメーカーや技術開発企業によってリードされていることに “a real fear” を持っていると語っている。そして彼は当然のことながら海運界は安全性を推進する技術の発展や改革に反対する訳ではないが、まずもって海事社会は直面するさまざまな問題や法的環境の整備に努力を傾注しなければならない、と指摘している。
 また3 月に自動運転米配車サービス「ウーバー」の自動運転車が公道で試験走行中に歩行者に衝突し死亡させた事故の記憶も新しいであろう。これは完全な自動運転車が歩行者を巻き込んだ初の死亡事故となった。この事故を受けて他のメーカーなども自動運転の試験を中断したと伝えている。
 ところで肝心の船員は「海上自律運航船」をどのように考えているのであろうか。昨年4 月にBaltimore で開催されたIFSMA の総会では「海上自律運航船」について我々は決してラッダイトにはならない。IFSMA は「海上自律運航船」の健全な発達に積極的に関与していく、と確認したところである。
 ラッダイト運動とはご存知であろうが、産業革命時代の1810年代に機械の導入によって失業と共同体の解体の脅威にさらされた英国の手工業者・労働者の起こした機械破壊運動である。これに対し政府はきびしい弾圧を加えた。ラッダイトLuddite の名称はネッド・ラッドNed Ludd と呼ばれた指導者に由来する、と言われている。

 

2.「海上自律運航船」に関する船員の意識調査

 IFSMA は本年2 月上旬に開催された冬の理事会で、5 月末に開催されるI M O の第99回海上安全部会(MSC)に「海上自律運航船」に関する船員の意識調査の結果をI T F(国際運輸労連)と連名でインフォメーション・ペーパーとして提出することを決めた。
ペーパーの表題は
 “Regulatory scoping exercise for the use of Maritime Autonomous Surface Ships (MASS)” – report of a survey on what maritime professional think about autonomous shipping  である。
 今号ではこの意識調査について紹介してみたい。この調査の報告書は写真のように“Futureproofed ? – Whatmaritime professionals think about autonomous shipping- と題されている。このFuture proofed? は船員の将来性を考えて、この職業に将来性はあるのか? と問うているのではないかと思うが如何であろうか。報告書の主要な点はNautilus International の会誌“telegraph” の2 月号にも掲載されている。
 表題のMaritime Autonomous Surface Ships (MASS)はIMO の用語と思うが、その訳語は必ずしも定着していないようで、海上自律航行船とか自動運航船とかの訳語がみられる。自動化の程度により、あるいは想定する自動化の段階の違いにより、用語も当然違うであろう。ここでは「海上自律運航船」としておく。そしてこの報告書では“maritime professional” という用語を使用しているが、この訳語もとりあえず「海技者」としておく。またこの報告書では自動化の程度により適宜用語を使い分けているようなので出来るだけそれに沿うようにした。
 なお、この意識調査の紹介については調査を実施したNautilus Federation の責任者より、ぜひ日本でも紹介してほしいとの了解を得ている。Nautilus Federation とはこれまでもたびたび紹介してきた英国、オランダ、スイスの船舶職員組合であるNautilus International がリーダーを務める連合体である。現在16ヶ国、21組合が参加しその組合員は9 万人にのぼる。
 意識調査の紹介に当たっては、設問のうち重要なものを取り上げ、報告書にある分析や回答者のコメントを整理してまとめるようにしてみた。
 今回の調査は2017年にNautilus Federationが基本政策を採択するにあたり、この「海上自律運航船」問題について、あまりにも技術的及び経済的な側面が先行しており、人的及び社会的な側面がないがしろにされていることを懸念して、まずは組合員である海技者の意見を聞き、対話しようとしたことにある。
 船員は過去に多くの技術革新に直面し、これを十分に習得し活用して安全性の向上や運航の効率化を実現してきた。動力は帆走からディーゼル機関となり、船隊は木造から鉄製、鋼製となり、モールス信号はGMDSS となった。一方では最近の海難事故に見られるようにECDIS にからむ事故が多発している。これは予め十分な準備や取扱者の訓練、そして有効性や信頼性が検証されていない技術の導入は危険性を伴うことを示している。
 海事社会に及ぼすインパクトの大きさからみて「海上自律運航船」の導入に当たってはとりわけ慎重な対応が必要と考えられている。

 

3. 調査及び主な調査結果

 この調査にはNautilus Federation 傘下の12ヶ国にわたる組合とおよそ900人の海技者が参加した。船長が254人、機関長は153人で残りは航海士・機関士、部員や訓練生を始めパイロット、海務監督、そして船社の幹部など極めて幅広い職種の海技者が参加した。そして彼らが働く職場は外航、内航、フェリーやオフショアなどほぼ海事・海洋産業の全てをカバーしている。海技者の国籍は英国、オランダ、米国、豪州、ニュージーランド、ノルウェー、シンガポール、デンマークそしてスウェーデンである。
 質問事項は「海上自律運航船」に関わる重要な問題点に関わるもので30項におよぶが、回答者の多くは進んで率直で、かつ彼らの専門的知識と経験に基づく貴重な意見を聞かしてくれた、という。その概要を以下に紹介したい。

 (1) 「経済的に採算の取れる無人化/ 遠隔操縦の船舶が2020年までに実用化されると思うか?」
 これに対して83% がNo と答えている。他の海事関係者に対する調査と違って、海技者は自動化の見込みに慎重である。現役の船員の40% は「海上自律運航船」が大勢を占めるには少なくとも今後20年はかかるだろうとしている。今世紀後半だろうという意見もある。
 そして90% 近くの回答者は船主が「海上自律運航船」に踏み切るのは船員を配乗するより経済的だと判断した時だとしている。航海士の一人は「船主は出費を嫌う。安全最小定員を安全最大定員と考えている。もし部品及び設備に関する安全規則がなければ、船内には救命艇もなければ消火設備もないだろう。救命艇には貨物を積むことが出来ないからだ。」といささか辛口なコメントをしている。
 しかしコストの問題は最も高いハードルだとは考えられていない。「海上自律運航船」の導入にあたり障害となると思う事項を1 から10点までのスケールを使って回答してもらったところ結果は下記の通りである。

サイバーセキュリティ8.16
コミュニケーションとデータ・エクスチェンジの信頼性7.96
法制度と責任制度問題7.81
ソフトウェアの品質7.62
リスク・アセスメントと社会的コンセンサス7.5
船員とその組合の抵抗7.43
規則や規制7.09
技術的な可能性6.52
訓練と再教育5.77
経済的な可能性5.65



 (2) 「自動化が不可避とすれば、どの分野で起こると思うか?」
 これに対し20% が内水/ 沿岸輸送、73%が大洋横断の国際航海、そして7 % が港内及び水先区域としている。
 これは海技者が「海上自律運航船」の導入に関する問題点をよく把握していることの証左であろう。すなわち「海上自律運航船」が導入されるのは経済的な採算性、運航の効率化、安全性の向上が見込まれ、そして適切な資格と高い能力を持つ船員の供給が逼迫した時に船主は導入に踏み切ると考えており、こうした点から大洋を横断する国際航海がもっとも可能性が高いと考えている。

 (3) 「自動化は船員の雇用の脅威となると思うか?」
 これは当然予想されたように84% の回答者がYes と答えたが16% はNo と答えている。その一方で83% 以上が自動化の技術は海上における労働の質を高める潜在力があると答えている。すなわち新しい技術が船内業務にともなう疲労や睡眠不足、過剰な書類の作成、あるいは退屈さなどの軽減に寄与する可能性を指摘している。また新しい技術が船体構造のリアルタイムでより正確なモニターを可能にすることや、ドローンをバラスト・タンクの検査などに使用することが可能となり、閉鎖空間での危険な作業から乗組員を解放出来るとしている。(ドローンをタンク検査などに使用する実用化についてはNautilusInternational の会誌 “telegraph” 3 月号に“Remote Revolution” として紹介されている)
 (4) 「船員に取って代わる新技術は海運界にとって良いことか?」
 これには33% がY e s で67% がN o である。また三分の二以上の回答者は新しい技術が船員にとって替わるかも知れないが、それは海運にとっては決して望ましいことではなく、自動化による安全性の低下を多岐にわたり指摘している。回答者の一人は「オフショア分野にける通常の必要なスキルを考慮すると、どのようにして日常的に起きる機器の不具合に遠隔操作で対応出来るのか疑問だ」と言っている。

 (5) 「無人化/ 遠隔操船の船舶は海上交通の安全性にとって脅威であると考えるか?」
 85% 以上が脅威であると答え、15% 足らずが自動化の発展とそれにともなう船員の減員は海上交通の安全性に寄与すると答えた。多くの回答者は「海上自律運航船」就航に関わる多くの問題点を指摘している。すなわち、法制度の整備、備品・設備の保安基準や信頼性、ソフトの品質などである。同じような質問で「自動化を進め船員に取って代わることは安全性を向上させる積極的な手段と思うか?」との問いには82% がNo と答えている。

 回答者が挙げた無人化/ 遠隔操船船の危険性は下記のようである。

 ● 機器の日常的な点検と保守維持
 ● 設備・機器及びシステムの故障
 ● 船上の設備・機器の信頼性と冗長構成
 ● ソフトウェアの不具合
 ● IT 及び通信システムの問題
 ● 高熱及び振動によるセンサーの不具合
 ● 海賊やサイバー攻撃
 ● 貨物の保全
 ● 想定外の気象・海象
 ● 決定的な状況における咄嗟の判断
 ● 自動化船と在来船が混在する過渡期の相互の関係


 また繰り返し指摘された安全性に関わる問題として船内で起きる予想外でまた複雑な不具合の連鎖が大事故に繋がる懸念である。例えばごく少量の燃料などがパイプから漏洩し、これがポンプの不具合に結びつき結果的に大事故となるおそれもあり得る。多くの回答者は彼らの乗船する船内の設備や機器の品質の悪さを挙げ、それに対して綿密な点検と十分な保守作業の必要性を強調している。また低質燃料による頻繁なストレーナーの詰まりなど自動化船でどう対応するのかとの疑問もある。
 ある機関士は「破損した燃料管を自動化でどうやって修理するのか?  燃料ポンプのシールが破損し、エンジンルームに燃料が漏れだしたらどうするのか? 殆ど毎航海、何らかの故障や不具合は発生する。海技者が船内にあって、ささいな事故がもとで大惨事にならぬようにする必要がある。」と言い、ある二等航海士は「航空機は依然としてパイロットが乗務しており、また航空機は毎日整備点検を受けている。船舶は港間の航海が2 週間に及ぶことも少なくない。誰が整備点検を行うのか。長年船乗りをやっているが、どの船も2 ~ 3 日に一回は船内のどこかで不具合が発生している。放置しておけば重大事故に繋がるものばかりだ。」と現実的で切実な問題を指摘している。
 もちろん航行及び衝突予防についてもコメントはあり、船舶輻輳する海域や地域によって変化する船種やその通航パターン、そして視界不良や夜間航行の危険性も挙げている。船長は「レーダーで探知困難な小型船をどうやって避けるのか、特に荒天時にはコンピュータも遠隔操船を行うオペレーターにとってもほぼ不可能ではないか?」と危惧している。

 (6) 「遠隔操船の船舶が安全に脅威を及ぼすのは何処か?」
 複数回答と思われるが19% がオフショア・サービス、12% が公海、38% が沿岸地域、39% が水先区域及び港内と回答し、回答者の多数(59%)はどこの海域においても安全性を阻害する可能性があると答えている。

 (7) 「将来の船舶において自律化のどのレベルが安全性が最も高いと考えるか?」
 自律化のレベルとしてはロイド船級協会が提唱している自律化レベル分けを用いて回答者の意見を聞いている。国土交通省海事局による自律化レベルの解説を引用し、調査の結果を下記する。

AL 0 自動化なし 16%
AL 1 船上での意思決定支援: 船の運航は、船員が意思決定。船上の最適な航路表示等の支援ツールが船員の意思決定に影響を与える。 29%
AL 2 船上及び陸上での意思決定支援:船の運航は、船員が意思決定。船上または陸上から機器製造者による機器メンテナンス、航路計画に関する支援ツールが船員の意思決定に影響を与える。 17%
AL 3 積極的な人間参加型: 船の運航は、人間の監視下で自律的に実行される。船上または陸上から提供されたデータにより、重要な決定は人間によってなされる。 44%
AL 4 人間監視型: 人間の監視下で自律的に実行される。重要な決定については人間によりなされる。 23%
AL 5 完全な自律: 船舶のシステムが決定したことについて、人による監視は殆ど行われない。 3 %
AL 6 完全な自律: 船舶のシステムが決定したことについて、全く監視されない。 2 %

 これを見ると回答者の16% のみが自動化を望まないと考えられ、これは海技者の新技術に対するオープンな態度を示していると思われる。
 自律化のレベルが上がるに従い、陸上での運航支援や監視が重要となるが、陸上のオペレーション・センター構想については意見が分かれた。陸上におけるオペレーション・センターのオペレーターに対する教育訓練や資格についてはIMO が積極的に審議することを望む声が多くあった。そして陸上オペレーターが持つべき技量として挙げられのが(複数回答)船長職に関わる技術が76%、機関長に関わる技術が64%、その他の職種に関わるものが27% ととなっている。

 (8) 「海上における技術の革新に応じ適切な技術や能力を習得するために船員の教育・訓練や資格制度は抜本的に変える必要はあるか?」
 80% がYes と答えている。そして回答者の一人は「自律化に関する技術は今後ますます進むであろう。全ての船員は再教育を受け、自律化発展に参加しなければならない。そうすることによって設備・機器の製造会社やシステムのプロバイダーの独善を許さず、社会のためや真の安全性向上を目指すべきだ。」と言っている。多くの船員は新しい技術を積極的に導入すべきで、また彼等自身も建設的な方向でこれに関わりたいと言っている。
 ある二等機関士は「私達はラッダイト運動家ではない。船舶運航を支援する技術革新は素晴らしい。しかし船舶の管理を人間の手から完全に取り上げるのは極めて危険だ。これは我々船員の仕事が無くなる恐れから言っているのではない。自動化の持つ本質的な危険に対する純粋な懸念からだ。自動化が大きな危険の恐れを代償に利益を生み出すために用いられることの無いようにしなければならない。」とコメントしている。
 二等航海士の一人は「自動化は未来だ。未来は誰も止められない。未来の一部にならねばならない。現在の仕事はなくなるであろう、しかし新しい仕事が生まれてくる。そこに焦点を当てよう。過去にすがるな。新しい発展に適応し、その構成員となるべきだ。」若手の前向きな態度は「海上自律運航船」の発展に大いに寄与するであろう。

 

4. 結び

 今年の2 月の理事会では、IMO のイム・ギテク事務局長がIFSMA の名誉会員になることを快諾して戴いたのを記念してロンドン市内で夕食会を開催した。筆者は事務局長の隣の席であったので親しく話す機会があった。事務局長は就任以来、各国を歴訪し、多くの海事教育機関を訪れたが、学生は一様に将来に対する不安を訴えたという。曰く、「私達の将来はどうなるのか」、「船員という職業は無くなるのか」、「今の教育は意味があるのか」、等々である。事務局長はIMO の責任を痛感し、青少年に海事社会の将来像を示すとともに教育訓練のあり方を見直すことが必要だと痛切に感じたという。なんとなれば教育訓練は人的資源を供給する基本であり、人的資源こそがIMO の推進する海上安全や環境保護の最大の鍵だからである。事務局長は夕食会の挨拶や雑談でも一貫して Human Factor に言及しており、出席したIFSMAのメンバーは心強く思ったところである。

 この意識調査でもラッダイト運動について回答者が言及しているがこの運動について、
欧米では産業革命に対するアンチテーゼとして今も記憶され、また学校でも教えられているのであろう。現代文明において、IT などのハイテク技術の進化と台頭によって、個人の雇用機会が次第に奪われていくのではないかと懸念し、それらの開発を阻止し、利用を控えようという考え方があるようだ。これはかつてのラッダイト運動になぞらえ、ネオ・ラッダイトと呼ばれている。最初に述べたようにIFSMA は決してラッダイト運動家にはならぬと明言し、「海上自律運航船」の健全なる発展・実現のために積極的に議論に加わることを基本的かつ重要な政策の一つとしている。技術革新により真に海上における安全性の向上、運航の効率化、そして海洋環境の保護を確保出来るような海上輸送の姿を求めている。
 この「海上自律運航船」に関する意識調査はYes/No の数値はもちろん重要であるが、コメントや自由記述の項目が多く、要点を整理するのは簡単ではないが、それだけに示唆に富む有益な調査となっている。
 読んで気づくのは、やはり現場の当事者の意見は貴重であることである。回答者は時には舌足らずであったり、裏付けに乏しくフィーリングによってコメントしている処もないではないと思われるが、日々波に揺られ、油にまみれ、陸上にあっては電話やスマホを駆使し、あるいはパソコンの画面に釘付けになって本船や船隊の運航や管理に携わっている人の声を生かさねば「海上自律運航船」の安全運航は望めない。

 

 

 

参考資料

 LRO ニュース 3 月13日付 (公社)日本海難防止協会 ロンドン研究室
 国土交通省海事局 ロードマップ作成の必要性
 ウィキペディア https://ja.wikipedia.org/
 wiki/ ラッダイト運動
“telegraph” February 2018, March 2018

 

 

 


LastUpDate: 2018-Nov-22