IFSMA便り NO.58

ブエノスアイレス総会

(一社)日本船長協会 副会長 赤塚 宏一

 

 本年度のIFSMA 総会は4 月下旬にアルゼンチンのブエノスアイレスで開催された。これはIFSMA の有力メンバーであるアルゼンチンの外航商船船長及び航海士センター(Centro de Capitanes de Ultramar y Oficiales de la Marine Mercantile:CCUOMM)が創立100周年を祝う行事の一環としてIFSMA 総会を招致したものである。このセンター長であるCapt. Marcos Castro はIFSMA の副会長も務めている。

ブエノスアイレス

 ブエノスアイレスは懐かしい港である。S丸の一航士のとき、天候にも恵まれ順調に航海を続け、パイロットが乗船しラプラタ川を遡った。まもなく着岸となったので船長に「ではそろそろ船首配置につきます」と挨拶し、ブリッジを離れようとしたその時、操舵手が「舵が効きません」と切迫した声を上げた。本船はラプラタ川の可航水域を示すブイとブイの真ん中を航行している。それでも浅瀬に乗り上げたのだ。ひとしきり号令や電話やVHF での連絡が飛び交い、満潮となった二時間後には無事に離洲した。ブエノスアイレスに着岸してからダイバーを入れて船底検査をしたが幸い無傷だった。
 S 丸船長であった吉川船長とOB 会などでお会いする機会があるとこの話で盛り上がる。「ブイとブイの真ん中を走って乗り上げるなら、いったいどこを走れというのか!」と憤懣やるかたない。私自身も船長としてブエノスアイレスに寄港したが幸い無事だった。
 偶然というべきか今回の総会ではラプラタ川のパイロットであったCapt.E.O. Gilardoniによる「Navigation in Shallow Waters Channel of Rio La Plata」というプレゼンがあり、ラプラタ川の航路筋や浅水域における航海で留意するべき点、川底の地質なども詳しく説明された。本人による同名の参考書がスペイン語で出版されている。
ラプラタ川は銀の川と名付けられたが、発見当時は「浅い海」と呼ばれていたと言う。
 今回ブエノスアイレスからフェリーに乗船して対岸にあるウルグアイのコロニア・デル・サクラメントに渡る機会があったが、ラプラタ川は茫洋とした茶色の海としか表現の仕様がない。我ながらどのようにしてブエノスアイレまで遡航してきたのか見当もつかない。

 

アルゼンチン外航商船船長及び航海士センター(CCUOMM)

 今回はCCUOMM の創立100周年を記念する行事と並行して行われため、IFSMA 会員のみならず、アルゼンチンの海運関係者や組合関係者も多く出席した。
 Capt. Castro の挨拶に引き続き来賓の祝辞のあと、CCUOMM の歴史を振り返るスライドとビデオによるプレゼンが行われた。第一次世界大戦の直後に結成されたCCUOMMは各国の組合の例にもれず激動の100年だった。特に1976年から1983年までの軍政時代には労働組合は強い弾圧を受け、CCUOMM の幹部も二人が拉致され、2010年になってその一人の遺体が確認されたが、他の一人は行方不明のままだという。2004年キルチネル大統領の規制改革でアルゼンチン海運もアルゼンチン船員も復興したようだが、これは1991年にセンター長に就任したCapt. Castro の功績とされている。
 CCUOMM は単なる組合ではないようで病院を経営し医療サービスを提供し、年金制度を運営し、失業保険や就職斡旋を行うなど幅広く社会保障サービスも担っているようで、その全貌は筆者などには到底わからないが、巨大な労組コングロマリットのように見える。4 階建てのビルには約70人の従業員がおり、女性はしゃれた制服姿である。Capt. Castroはすでに組合長として27年になる。センター長室は豪華とは言えないが、広くベッドルームにシャワー、専用のエレベーターもついている。Capt. Castro は絶大な権力を握っているのであろう。従業員の彼に対する態度は敬意と親しみがこもっているようで見ていて気持ちが良かった。

 

IFSMA 総会・理事会の議事

 (1) 役員選挙
 今年は4 年に1 回の役員選挙であり、結果は副会長の一人を除いて全員再任された。会長はノルウェーのCapt. Hans Sande であり、会長代理はドイツ、7 人の副会長はアルゼンチン、日本、オランダ、アメリカ、スウェーデン、デンマークそしてフランスである。フランスはこれまでのCapt. Dominique Perrotの後任として立候補したのがCapt. Danielle Quaini であり、IFSMA 初の女性役員誕生となった。Capt. Quaini については本誌第439号(平成29年6 月・7 月号)IFSMA 便り(52)“Baltimore” で紹介したところである。彼女が加わったことによって、IFSMA の役員陣も多様性をまし、幅広い見識を集約出来るであろう。海事関連の多くの団体に先駆けて女性船長が役員となったことは世界の後輩の女性船員にも希望を与えるに違いない。
 さらに今回トルコやインド、ブルガリアなどからも立候補あり、またこれまでIFSMA便りでも書いたように理事会メンバーすなわち役員以外は何かと情報の交換に支障のあるところから、副会長の定員を7 名から一挙に10名とする案が会長から示されて基本的に合意された。

 (2) 事務局長の辞任、会費の値上げ等
 現任の事務局長、Jim Scorer(英海軍准将) は腰痛や糖尿など積年の病弊により、doctor stop となり、辞任することとなった。今後はSenior IMO adviser(仮称)として体調の許す範囲でIMO 会議をカバーすることとなった。就任以来2 年余、IMO 事務局長の個人的な厚い信任を得るなど活躍が期待されているだけに惜しまれる。
 後任の事務局長としてJim のようなボランティアを期待するのは非現実的であり、また副事務局長のCapt. Paul Owen も夫人が最近2 度も心臓発作で入院しており、これまでのような業務を期待出来なくなったところから、フルタイムの事務局長を採用することが合意された。ロンドンにおいて海事関連団体などのTop は£10万(約1600万円)程度は必要と言われているそうだが、IFSMA にはそのような支払い能力はないので、まずは£ 6 万~ £ 8 万/ 年で探すこととされた。フルタイムの場合、社会保障など雇用者の負担がさらに£ 1 万程度必要となる。
 後任の事務局長の目当てはまだないようであるが、まずは退役海軍将校をあたるようである。英国では海軍と商船の距離は近く、海軍出身者が海事関連団体の役職員に就いている例は多くみられる。
 一方IFSMA の年会費収入は2017年度で£84,877であり、事務局長一人の人件費すら賄えない。このため、会費値上げについて長時間の審議が行われた。小職は会費値上げに先立ち、まず会長が各国協会に手紙を送り、申告会員数を増やすように要請し、さもなくば会費を値上げせざるを得ないと事情を説明しては如何と提案し、会長を始め相当数の支持を得たが、最終的には増収は喫緊の問題であり、現在の£12/ 会員から£15/ 会員とすることが合意された。また各協会のミニマムの会費は£1,000とすることとなった。このため申告会員数が66人以下の協会は一律に£ 1 ,000となる。個人会費も£60から£75になる予定である。
 当協会の場合、£12×300人= £ 3 、600(約¥576、000) から£15×300人= £4,500( 約¥720,000)となり、約¥144,000の負担増となるが、会員諸兄のご理解をお願いしたい。英国がE U 離脱を決めて直ぐにポンドが15~20% 下落したし、離脱後はさらに下落すると予想されているところ、会費値上げとOffset になればと望んでいる。(過去1996年(?)には一度£14/ 会員となったことがある。)
 当然の事ながら事務局運営の経費節減については、事務局の移転や年次総会を取りやめ隔年毎に総会を開催するなど運営の在り方などの大幅な見直しに着手することとされた。
 なお、役員の定員増や年次総会の変更などを含めたこれらの改正手続きは、事務局にて決議案を作成し、理事会の承認を経て、各国協会に送付し、9 月に予定されている理事会に合わせて臨時総会を開催し審議することとなる。合意されれば2019年度から実施される予定である。

 (3) 台湾船長協会の加入
 こうした厳しい状況のなか、台湾船長協会(正式には中華民国船長公會)のIFSMA 加盟は明るいニュースとして歓迎された。これは3 年程前からClassNK の齋藤直樹船長を通して接触が始まり、一昨年には台湾運輸省の英国留学生がIFSMA 本部を訪れたことから加盟への実現に向けて動き出した。昨年4月米国のバルチモアで開催されたIFSMA 総会には台湾船長協会から2 名がオブザーバーとして参加し、加盟も間近かと思われたが、台湾船長協会事務局長の交代もあって、4 月にやっと加盟申請書が届いた。加盟申請書を見ると協会の正会員は船長とパイロットで、146名が海上勤務、60名が陸上勤務、合わせて206名が加盟した。他に440名の退職船長がいるようだ。今後は是非IFSMA の活動に積極的に参加して欲しいと思う。
 韓国にも予ねてからIFSMA への参加を呼びかけているのだが、韓国では船長・航海士、機関長・機関士を含めたK o r e a M a r i n eOfficers’ Association (KMOA 韓国海技士協会) という組織があり、K M O A としてIFSMA に参加するには当然のことながら問題があると思われる。しかし最近の情報ではKMOA のsplinter group として韓国船長協会を設立するという動きもあるようで、IFSMA への加盟が期待されるところである。 この他、インドネシアもIFSMA 事務局に接触はして来ているが加盟までに至っていない。

 (4) 日本船長協会のプレゼンテーション
 日本船長協会事務局の用意したパワーポイントに基づき日本沿岸における当会の自主分 離通航方式やIMO で採択された伊豆大島沖の推薦航路、現在検討されている東京湾口に於ける海上交通の整流化等についてのプレゼ ンテーションを行った。幸い好評だったと思う。質疑応答では米国の出席者よりVirtual Buoy の信頼性や精度について、特に大規模災害などで陸上施設が影響を受けた時などの対応について質された。またブルガリアからは、かつて同僚が日本沿岸で漁船と衝突し、大きな問題となったことがある、日本沿岸を航行するには細心の注意が必要といわれている、そして日本の漁船は衝突予防法を軽視しているのではないかとの苦言もあった。また漁船に対する安全対策、漁業関係者や水産団体との協議は行われているのかとの質問もあった。
 後刻、インドも沿岸に分離航路帯を設立する予定で検討を進めようとしているところなので大変参考になったとのコメントがあった。

 (5) 2019年度総会
 会長代理のCapt. Willi Wittig( ブレーメン工科大学准教授)主導で進められており、2019年9 月下旬、インドのニューデリーで1 st International Shipmasters Congress と称し、“Future Skills Requirements for a Digitalized Maritime Industries” のタイトルのもと、セミナーとIFSMA の理事会・総会を合わせて行うとしている。すでにIMO のLim 事務局長も冒頭の基調演説を行うことを快諾したとのことである。
 こうした大規模なCongress の主催については危惧も表明されたが、Congress そのものはインドの商船大学やインド海運省、業界団体などと行うものであり、IFSMA には財政的な負担は掛けないと説明している。また会長もIFSMA のIndustrial Member を獲得するためにはこうした行事を開催する必要があると容認している。
 インドから出席しているP r o f .(C a p t .)Bhardwaj に「よりにもよって暑いインド、しかもニューデリーで会議をやるのか、外気は40°にもなるのではないのか」と聞いたら、彼は「それは大きな誤解だ。9 月も下旬となればニューデリーも結構涼しいし、会場のエアコンは万全だ」という。このCongress に興味のある会員諸兄はプレゼンも含めてぜひ出席を検討して欲しいと思う。

 (6) 名誉会員
 総会最後に筆者は突然名誉会員の推薦を受けた。本年2 月にはLim IMO 事務局長を名誉会員としたところであるが、筆者の場合はIFSMA との長年のお付き合いと日本船長協会が財政難で一時脱退したが、その後復帰し現在の申告会員数が300人体制になったことに尽力したとの理由のようである。そうとすれば当会の森本元会長、小島前会長そしてなにより会員諸兄のお蔭と言わねばならない。

 

 

 


LastUpDate: 2018-Nov-22