IFSMA便り NO.59

Plastic Odyssey
海への脅威、そして人類への脅威

(一社)日本船長協会 副会長 赤塚 宏一

 

はじめに

 私達の職場であり、生活の場である海が今、マイクロプラスチック(注1 )という怪物に脅かされている。プラスチックごみが顕在したのは1970年代というが、90年代後半にヨットマンであり市井の科学者であるアメリカのCapt. Charles Moore が北太平洋に大量のプラごみが漂う海域を発見し、「太平洋ゴミ・ベルト」と名付けて広く衆目と科学的な注目を集めた。Capt.Moore は、トランスパシフィック・ヨットレースに参加したあとの北太平洋環流を帰る途中に、膨大な漂流ごみの広がりを目の当たりにした。Capt.Moore はアメリカの海洋学者のCurtis Ebbesmeyer にこの海域へ注意をはらうよう促したが、Ebbesmeyer は後にこの海域を“Eastern Garbage Patch” (EGP 西部ごみ海域)と命名した人物である。
 32年前の1986年8 月、筆者は船長として南大西洋を航海中であった。南米のサントス港を出て喜望峰経由でシンガポールへ向かう東回り世界一周航路の貨物船である。南大西洋はおりから優勢な低気圧が発生したとのことで通常の航路より思い切って南に下がり、南緯40度付近を航行した。行合船は殆どなく、毎日海と空と水平線である。しかし海面には白いゴミが漂っていた。プラスチックである。魚箱や包装紙、レジ袋などである。こんなところにもごみがあるのかといささか衝撃を受けた覚えがある。ほどなくして本社から下船命令とロンドン行きの内示があった。ロンドンでの仕事の大きな部分を占めるのはIMO会議に関わることだという。船長職には大いに未練があったが、IMO で海洋環境保護について審議に参加出来ることに喜びを感じたものの、プラスチックごみ問題意識のレベルは低いものであったと言わざるを得ない。

 あれから30年余、今やプラスチックは海を脅かし、人類の生存すらも脅かしている。さて、海洋にとってプラスチックはどの程度深刻な問題なのであろうか。
 “National Geographic” June 2018号は“Planet or Plastic?” と題して53ページにのぼる特集を組んでいるが、その内容はともかく、いかにも“National Geographic” らしくプラスチック・バッグに絡めとられたコウノトリなどの原色のどぎつい写真がこれでもかこれでもかと掲載されている。

 実際にはどの程度のプラスチックごみ、さらにマイクロプラスチックが海へ流入しているのであろうか。海には毎年1000万02000万トンのごみが投棄され、80% をプラスチックごみが占める。世界のプラスチック生産量は2014年時点で3 億1100万トン、50年前の20倍を超す。
 世界経済フォーラムによると海に流出するプラごみは年に最低でも800万トン、これは500髦€3入りのペットボトルに換算すると実に3200億本分と推計されている。また海に漂うプラスチックごみは1 億5000万トンを超すという。このままでは「2050年までに魚の総重量を超す」と警告している。この800万トンという数字を容積に換算してみた。500髦€3のペットボトルの占める容積を600髦€3と仮定して、1 億9200万・3、東京ドーム(124万・3)の実に154.8杯分になる。恐ろしい数字だ。このプラごみが紫外線や潮流・波浪によって砕かれ、細かな粒子、すなわちマイクロプラスチックとなって海面を、海中を漂っているといわれる。そしてそれらは食物連鎖を通じて小型魚から大型魚、さらに人間の体内にも取り込まれる。
 おりしも4 月末にブエノスアイレスで開催されたIFSMA 総会にフランスのCapt. DanielleQuaini から提出されたペーパーが表題の“Plastic Odyssey” で海洋のプラスチックごみを扱ったものである。このペーパー及び前述のCapt. Charles Moore の著書をベースにプラスチックごみ問題を考えてみたい。
 またプラスチックごみ問題については海洋会の海事問題調査委員会による先行研究「マイクロプラスチック問題について」(「海洋」No.901 2017年3 月号p.24、p.880105 )があるのでぜひ併せて読んで頂きたい。

 

1.「 プラスチック・スープの海」

 いささかショッキングなタイトルのこの本は、Capt.M o o r e の著書“Plastic Ocean”の和訳である。原著は2012年に出版された。なお別途“Plastic Soup” byJesse Goosense という同様にプラスチックごみの脅威を報告した本が存在する。著者の Capt. Moore は大学で化学を専攻したが、1967年に中退し、以後は相続した財産を基金としてアルガリータ海洋調査財団を設立し、海洋汚染を警告する環境保護活動家であり、研究者でもある。
 もともとはアマチュアのヨットマンであるが、米国コーストガードで訓練を受け、100総トン以下の船長海技資格を得ている。この財団の調査船はカタマランヨット・アルギータ号といいタスマニアで建造された。
 原著は本文だけでも361ページあり、扱う情報が多岐にわたり、かつ整理されているとは言い難く、また時系列的に書かれているわけでもないので読み通すのは楽ではない。プラスチックごみや他の海洋ごみなどによる海洋環境汚染に対する切迫感からか、あれもこれもと詰め込みすぎた感がしないでもない。
 本書で扱われているテーマは

①プラスチックの歴史、開発と普及 
②使い捨て生活の定着
③ゴミ捨て場としての海洋
④プラスチックの毒性
⑤プラスチック生産者及び販売者
⑥海洋ごみ 流出コンテナや漁具・漁網
⑦海洋ごみの科学調査
⑧ Reduce, Reuse, Recycle より“Refuse”と整理してみた。
「③ゴミ捨て場としての海洋」では人間とゴミ処理の歴史が語られる。産業革命期の鋳造業、製粉業、製造業、食肉解体処理業などにとって、河畔に位置することは絶対条件だったという。全てのごみや有害な廃液は全て何の規制もなく川に流された。(注2)
 もともとはアマチュアのヨットマンであるが、米国コーストガードで訓練を受け、100総トン以下の船長海技資格を得ている。この財団の調査船はカタマランヨット・アルギータ号といいタスマニアで建造された。
 原著は本文だけでも361ページあり、扱う情報が多岐にわたり、かつ整理されているとは言い難く、また時系列的に書かれているわけでもないので読み通すのは楽ではない。プラスチックごみや他の海洋ごみなどによる海洋環境汚染に対する切迫感からか、あれもこれもと詰め込みすぎた感がしないでもない。
 本書で扱われているテーマは
①プラスチックの歴史、開発と普及 
②使い捨て生活の定着
③ゴミ捨て場としての海洋
④プラスチックの毒性
⑤プラスチック生産者及び販売者
⑥海洋ごみ 流出コンテナや漁具・漁網
⑦海洋ごみの科学調査
⑧ Reduce, Reuse, Recycle より“Refuse”と整理してみた。
「③ゴミ捨て場としての海洋」では人間とゴミ処理の歴史が語られる。産業革命期の鋳造業、製粉業、製造業、食肉解体処理業などにとって、河畔に位置することは絶対条件だったという。全てのごみや有害な廃液は全て何の規制もなく川に流された。(注2)
 産業革命以降はこと河川・海洋については人間とごみ処理との戦いの場であり、歴史でもある。そして本書を読む限り、この戦いは人類にとって形勢不利となっているのではないかとの危機感をもたらす。本書で示される凄まじい海洋の汚染の実態、インドネシアのチタルム川は世界で最も汚染された川の一つであるが、本書の写真でみると川面一面がごみで覆われ、水面は殆ど見えない。またインドの聖なるガンジス川は世界で一番大きい下水路と言われて久しい。
 また Capt. Moore はコンテナ船のデッキ上から波に攫われたコンテナの貨物が海洋を汚染する実態や、漁具、特に漁網と延縄が投棄され海洋ごみとして海生生物の多くを犠牲にする状況を克明に記し、海に生きる同僚である商船船員や漁師の姿勢に厳しい目を向けている。少し古いデータだがあるアメリカの研究所は年間10,000個のコンテナが海没していると推測しているし、また台湾の漁船はしばしば魚を獲り過ぎのため、魚を貯蔵するスペースを確保し、かつ転覆を防ぐために漁網や漁具を海中に投棄するという船長の話を紹介している。この方が経済的なのだという。
 プラスチック・スープの海は、今やスープはスープでもコンソメではなく、ポタージュになっているのではないか。そしてコンテナや漁網がクルトンとして浮かんでいる、恐ろしい光景が目に浮かぶ。
 Capt. Moore はこうした海洋汚染を少しでも防止するために3 R より大切な4 番目の“R” を呼びかけている。それはReduce(縮減)、Reuse(再利用)、Recycle(リサイクル) 、ではなくプラスチック製品の “Refuse” (拒絶)であるとしている。

 

2. “Plastic Odyssey”

 これは “Plastic Odyssey” と名乗るフランスの団体がリサイクル不能なプラスチックごみを燃料として推進する全長24メートルほどの双胴船、“Plastic Odyssey” 号を建造し、これで世界を周航して、プラスチックごみの脅威と、リサイクルの重要性を訴え、さらには途上国における寄港地では、プラスチックごみのリサイクルを通して地域の活性化を図る大航海に乗り出そうというものである。
 Odyssey とはもちろん古代ギリシャの詩人ホメロス作と伝えられる長編叙事詩でトロイア戦争から凱旋するオデュッセウスが海上で放浪と冒険を重ねて、苦難をなめつつ故郷イタケー島に待つ妻と再会するという筋で、長期の旅路や放浪の旅を意味する。欧米ではこのOdyssey という言葉はよく使われる言葉で米国船長協会の機関誌 “Sidelights” には“Peter, the Odyssey of a Merchant Mariner”というタイトルの船員の一代記が長期に亘って連載されているし、Nautical Institute の創設当時の歴史を扱った記録も“A NauticalO d y s s e y : A H i s t o r y o f T h e N a u t i c a lInstitute” と題されている。欧米の船乗りにとってはオデュッセウスは偉大な船長なのであろう。日本でも(公財)日本海事広報協会が発行する「海上の友」にも「新 海と人のオデッセー」という欄がある。

 このプロジェクトのリーダーはフランス人のSimon Bernard でまだ若いが商船船員として働く傍ら多くの環境保護活動に従事し、数々の栄誉を受けている筋金入りの環境保護活動家である。
“Plastic Odyssey” 号の要目は次のとおりである。

全長 23.9 メートル
全幅 9.0 メートル
排水量 70 トン
機関 2 ×100KW 電動機
目標船速 7 09 ノット
乗組員 8 014人

 それでは推進機構はどうなっているのであろうか。提出されたペーパーの図を借りて簡単な説明をしてみたい。まずこの “PlasticOdyssey” 号では60kg のプラスチックごみから45リットルのディーゼル油と15リットルのガソリンが抽出出来るとする。

 プラスチックごみを①のシュレッダーに投入して粉砕する。②の熱分解装置では無酸素の状態でこれらのプラスチックの破片を430℃まで熱し、燃料蒸気、合成ガス及びカーボン・ブラックを得る。③の触媒作用装置にて、さらに効率よく燃料を得るために大きな固形物を分解する。④の分別凝縮装置によってディーゼル油とガソリンに分離し、二つの凝縮塔に貯める。320℃から200℃にてディーゼル油が、200℃から20℃でガソリンが得られる。⑤はこれの得られたディーゼル油とガソリンをそれぞれのタンクに貯蔵する。また液状化しない合成ガスは空気と混合し燃焼して②の熱分解装置の熱源とする。「化学的リサイクル」という新しいテクノロジーを利用しているのだ。
 なお、排ガス対策として微粒子用フィルター及び触媒作用によるフィルターを装備するそうだが、塩ビ製品等が他のプラスチックと一緒に燃やされればダイオキシンを発生するとはよく聞く事だし、高温で処理し、フィルターで除去するとは言ってもこのような小型船舶で処理の為の十分な装置を設置するスペースがあるのかなどの疑問は残る。
 船体の各所には太陽光発電パネルを設置し、各種計器や居住区に給電する。

 このプロジェクトのスケジュールは下記の通りである。
 2017年11月からデモンストレーション用の四分の一モデルを建造始め、2018年2 月には海上試運転をマスコミ等に公開した。5 月にはクラウドファンディング手法による大々的な資金集めを開始している。2018年9 月に建造開始、それに続き熱分解装置などの建造も開始する。2019年には地中海にて海上試運転を行う。
 そしていよいよ2019年11月には3 年かけて世界を一周する巡航に出る。
マルセーユを出航し、アフリカ西岸を南下してシエラレオネのフリータウンから南大西洋を渡りブラジルのナタールに至る。南米東岸を北上しカリブ海を回りパナマ運河を経て南米西岸のリマから南太平洋、フィジー、パプアニューギニア、フィリピン、中国、インドネシアを訪れ、ロンボク海峡からインド洋に至る。その後インド等を訪れマダガスカル、喜望峰経由アフリカ西岸を北上、ジブラルタル海峡を通りマルセーユに帰港する。寄港地の数は65港、そのうち主要な33港では2 週間から3 週間停泊し、その間に船内公開や地元の環境保護団体や大学などと協働し、環境保護やプラスチックごみの実態、リサイクルの必要性に関するシンポジウムやコンファレンスを開催し地元民の環境保護に対する啓蒙活動を行う。また船内の居住区をリサイクル・ワークショップとして開放し、実際にプラスチックごみのリサイクルから再生される日用品や玩具などの作製など多様な活動を予定している。その他の港では5 日07 日程度停泊し、燃料となるプラスチックごみの採集や船体の整備に充てる予定だという。
 乗組員は4 人の熟練船員、システム・エンジニア2 名、1 名のドキュメンタリー・フィルム・メーカー兼カメラマン、1 名の音声担当者兼写真家、各地でのイベントを取り仕切るマネジャー1 名、それに加えて3 05 名のゲスト、すなわちプロジェクトのパートナー、メディア、科学者やアーティストなどが乗船を考えており、総計で14名程度の規模となる。乗組員の構成からもわかるようにPR 活動、メディア対応には非常に力を入れており、航海中の模様や寄港地でのイベントに関してはインターネット、TV 等を通して逐次発信し、また包括的なドキュメンタリー・フィルムとして公開する予定である。
 スポンサーやパートナーとしてフランスのみならず欧州各国の環境団体などが参加している。またフランス船主協会も加わっている。フランス船長協会はどのような形でプロジェクトに参加するのかまだはっきりしていないができる限りのサポートをしたいと言っている。IFSMA の総会に “Plastic Odyssey” 号についてペーパーを提出したのもその一環であろう。
“Plastic Odyssey” 号は残念ながら日本へは寄港する予定はないが、機会があればぜひ見学してみたいと思っている。

 近着のNautilus International の機関誌“telegraph” 7 月号に “Mindset Shift” と題して豪華ヨット(Superyacht)の女性船長であるオランダのCapt. Marja Kok が船内でペットボトルの飲料水を飲むことを止めようとするキャンペーンについて紹介していた。(注3 )
 調査によれば豪華ヨットは年間に1リットル入りの飲料水約4000万本を消費する。ヨット1隻あたり毎週400本から600本を消費するのだという。これはヨットのオーナーやそのゲストはプラスチック・ボトル入りの飲料水の方が清潔で衛生的、美味い、簡単に冷やせる、あるいは炭酸ガス入りが飲みたい、等の理由により船内の飲料水を避けるためだという。こうしたプラスチック・ボトルは回収されることは殆どなく全て海中に投棄されるという。恐ろしい話である。Capt. Marja Kok はこうした実態を目にして、せめて環境保護意識の高い乗組員からプラスチック・ボトルを止め、船内の飲料水を飲もうと呼びかけている。さらにWHO(世界保健機関)の調査では93%のプラスチック・ボトル入りの飲料水にはマイクロプラスチックが認められるという。こうなるとプラスチック・ボトル入りが果たして安全かどうかは分からないとも述べている。

 

3.マイクロプラスチックの規制の現状

 このところプラスチック製品を制限する動きや汚染防止の為の動きが各所で見られる。イタリア、ベルギー、ケニヤなどはプラスチックのレジ袋の全面禁止を打ち出したし、エリザベス女王はバッキンガム宮殿やウィンザー城などの王室施設で使い捨てのスプーンや容器などのプラスチック製品を全面禁止にしたとのことである。
 プラスチックごみによる汚染は地球規模に広がりつつあるなかで、ようやく取り組みが始まった形だが、一方で途上国を中心に現在も年間800万トンを超すプラスチックごみが海に流れ込んでおり、美しく汚れの無い海を保つために一刻の猶予も許されない状況にある。
 欧州連合(EU)は5 月、ストローなどプラスチック製品の製造禁止と25年までにプラスチック・ボトルの90% を回収するプラスチック戦略を加盟各国や欧州議会に提案した。国連も今年1 月、代替品の開発などを検討する専門家グループの設置を決めた。
 6 月上旬にカナダで開かれた主要7 ヶ国首脳会談(G 7 サミット)は、2030年までにプラスチックに替わる代替品に切り替えることを謳うマイクロプラスチック対策、海洋ごみ問題対策の行動計画を策定した海洋プラスチック憲章をまとめた。だが日本は米国とともに署名を見送った。中川雅治環境大臣は「市民生活や産業への影響を慎重に検討する必要がある」と釈明したと新聞は伝えている。またか! という失望感は大きい。Capt. CharlesMoore も非常に残念に思っていることであろう。
 一方、6 月26日付のLRO ニュースは「プラスチック汚染問題について、生態学的影響や人体への影響など様々な潜在的リスクが議論されているが、これら不確実性を減らすには、プラスチックごみに対するリスク評価が必要だと蘭の研究者らは指摘している。これにより、既存の有害化学物質に対するリスク評価同様、明確な根拠に基づいた政策の実行が可能になると期待される。評価手法の確立に当たっては、まず現在課題となっている全種類、全サイズのプラスチックによる影響を明らかにし、測定方法の標準化を図っていくことが求められる他、様々な濃度による影響の違いも明らかにし、安全基準を確定していくことが必要だと述べられている。原文 Apr. 18, 2018, 欧州委員会(野口美由紀)」と報じている。
 これは当然のことで、一日も早い科学的なリスク評価が確立されることを期待したい。
 7 月5 日付の日本経済新聞によると、米国ワシントン州のシアトルではプラスチック製ストローを禁止する条例が施行された。これはTV でも報道されたのご覧になった方も多いだろう。膨大な数の使い捨てプラスチック製品からみれば、ストローは量的にも極めて小さいもののように思われるが、Reuse されない、またリサイクルされない象徴的なごみとして取り上げられたのであろうか。

 このプラスチック製ストローについて下記の記事を見つけたので全文をそのまま引用する。
(注4)

 『環境保護に対する意識の高まりを受け、プラスチック製ストローを廃止する動きが海外で広がっている。米McDonald’ s は、9 月から英国とアイルランドの計1361店舗でストローを紙製に切り替えるほか、米Starbucksも、2020年までに全世界でプラ製ストローを廃止し、ストローがなくても飲めるふたを導入する計画だ。
 海外の動きを受け、日本マクドナルドもストローの切り替えを検討するという。スターバックスコーヒージャパンは、20年までにプラ製ストローを廃止する方針をすでに固めている。
 こうした動きは今後さらに加速し、プラ製ストローは国内の飲食店からいつか消えてしまうのだろうか。その場合、国内ストローメーカーには大打撃が生じる可能性もあるが、各社は生き残れるのだろうか――。
●プラ製ストローは日本ではなくならない?
 国内トップのストローメーカー、シバセ工業(岡山県浅口市)は「今後も国内市場からストローがなくなることはないだろう」(営業部、以下同)と強気の姿勢を見せる。
「プラ製ストローの廃止を始めたのは一部の外資系企業だけ。国内メーカーから『取引をやめたい』などの連絡はほとんど来ていない。今後も多くは来ないだろう」という。
 同社にその根拠を聞いたところ、国内でプラ製ストローの廃止が進まない最大の理由は「代替品として期待されている紙製ストローに多くの課題があるため」という。
●飲んでいると中身が飛び出る? 紙製ストローの課題とは
同社によると、その課題は( 1 )コストの高さ、( 2 )耐久性の低さ、( 3 )粉の出やすさ――の3 点だ。
「紙製ストローは、製造コストがプラ製の4 010倍かかるため、比例して価格も高く、導入企業の原価を圧迫するだろう。強度にも問題があり、20030分間水分に浸しておくとふやけ、飲んでいる最中に飲料が外に飛び出す危険性もある」と同社は指摘する。「トイレットペーパーの芯などと同様、原紙を巻いて製造している特性上、紙の粉なども生じやすい。粉が中身に溶け出して品質が悪くなることも考えられる」という。
 今後は外資系企業を中心に、いったん紙製ストローに切り替えたものの、問題が生じてプラ製ストローに戻す企業が出てくる可能性もあるとしている。
●日本はリサイクル率が課題
また、欧米と日本でストローの処理方法が異なることも、国内でプラ製ストローがなくならない要因だという。
 欧米ではストローを処理する際に埋め立てる国が多いが、日本では焼却炉の整備が進んでおり、大半が焼却処理される。そのため、海辺に大量に埋められて海洋汚染につながるケースは比較的少ないという。
 ただ、「日本はプラ製ストローをリサイクルする体制も整っているが、分別廃棄が進んでおらず、燃えるごみとして処理されるケースが多い。これこそが環境保全における課題だ」と警鐘を鳴らす。
「飲食店が分別せず、残飯などの燃えるごみに混ぜてプラ製ストローを廃棄していることがその原因。ストローをプラ製から紙製に切り替えるコストよりも、ごみの分別に要する人件費などの方が安いはず。飲食店は分別を推進してほしい。焼やされるストローを減らすことこそが、二酸化炭素の排出量削減などにつながる」
●ストロー界の今後はどうなる?
 シバセ工業の指摘通り、紙製ストローの利用時にさまざまな問題が起きれば、飲食事業者のイメージダウンは避けられない。導入を検討する企業は、こうしたリスクを知っておく必要がありそうだ。また同社が本当の課題だとみている、ごみの分別とリサイクルが飲食事業者の間で進んでいないことも事実だ。
 国内の飲食事業者は今後、どんな対応を取るのだろうか。海外の流れに乗るのか、リサイクルに注力するのか、大きな変化はないのか――。今後の展開が注目される。』

 台湾当局もプラスチック製ストローの使用を禁じる規制案を打ち出したが、ストローなしで台湾名物のタピオカ・ミルクティーをどうやって飲めばよいのかと市民の不満が高まっていると7 月11日付の朝日新聞は伝えている。

 日本も使い捨てプラスチック製品の削減や再利用、リサイクルを徹底する総合的な戦略「プラスチック資源循環戦略」づくりに乗り出すという。しかし海洋立国を標榜する海洋国としては遅きに失した感は拭えない。
 日本のプラスチックごみのリサイクル率はいかほどなのか手持ちの資料はないが、UNEP(国連環境計画)が6 月に発表した報告書「使い捨てプラスチック」によると、プラスチック容器包装などの使い捨てプラスチックごみを最も多く出しているのは中国で約4 千万トン(2014年)だった。日本からの発生量はその8 分の1 程度である。しかし一人当たりに換算すると日本は約32キロで2 位、1 位の米国は約45キロだった。(注5)
 またマイクロプラスチックによる日本の汚染が特に深刻だという研究もある。日本の周辺海域のマイクロプラスチックの濃度は世界平均の27倍だという。これは日本を含むアジアでのプラスチックごみの発生量が多いことが要因だとみられる。
 こうした現実を前にして日本はもっと問題意識を持つべきであり、日本が主導してプラスチックごみの削減に努力すべきである。
 特に海を職場とする私達こそもっと真摯にこの汚染問題に向き合わなければならない。海上にある会員諸兄は航海中にごみベルトに遭遇した経験をお持ちではないかと思うし、それなりに考えることもあると思う。
「海の日」に読売テレビの番組「これぞニッポンの海0水の恵みと生きる人々0」を見た。どこまでも澄んだ積丹半島の紺碧の海、積丹ブルー、日本一のダイビング・スポット、駿河湾の大瀬崎、沖縄の加計呂麻島、これぞ日本の魂の故郷だと思うが、この澄んだ海が実はマイクロプラスチックに汚染され、しかも世界のどこよりも汚染度が高いという。マイクロプラスチックはその微小性のために、おそらく未来の技術力をもってしても回収は不可能だろう。私達に出来ることは少しでも汚染の進行を止めるためにプラスチックごみに対する理解を深めねばならない。
 子供の頃読んだ冒険小説には帆船がサルガッソー海でサルガッソー(海藻ホンダワラ)に絡めとられる場面があったが、今や商船がプラスチックごみに絡めとられる悪夢を思う。
(2018年7 月16日「海の日」に脱稿)

注1) 1 マイクロ・メートルは100万分の1 メートル、すなわち1000分の1 ミリ・メートルのことだが、ここでは「マイクロ」という言葉を「とても小さな」という意味に使い、直径5 ミリ・メートルより小さなプラスチックごみを、マイクロプラスチックとよんでいる。どれくらいの大きさまでをマイクロプラスチックに分類するかは、研究者によって違いがある。
注2) 「 プラスチック・スープの海」p.66 
 なお、原文は Riversides proved irresistible sites for the Industrial revolution’ s foundries, mills, factories, and slaughterhouses. Toxic d i s c h a r g e f l o w e d u n b r i d l e d , t h o u g h n o t unnoticed.”
注3) www.waterwithoutwaste.org
注4) ITmedia ビジネスONLiNE – 2018年7 月12日
注5) 7 月4 日付朝日新聞夕刊

参考文献
1 .NATIONAL GEOGRAPHIC June 2018
  “Planet or Plastic?”
2 . “Plastic Odyssey” by Capt. Daniella Quani
3 . “Plastic Ocean” by Capt. Charles Moore
4 .「海洋」No.901 2017年3 月号
5.「 プラスチックスープの海 北太平洋巨大ごみベルトは警告する」
  著者  チャールス・モア カッサンドラ・フィリップス
  訳者 海輪 由香子 2012年8 月25日 NHK 出版
6 .日本財団 笹川陽平ブログ
7 .LRO ニュース: 海難防止協会ロンドン研究室
8 . NHK これでわかった! 世界の今 7 月15日
「プラスチックごみ」
9 . 朝日新聞
10. 日本経済新聞
11. Wikipedia

 

 

 


LastUpDate: 2024-Apr-25