IFSMA便り NO.60

I F S M A 臨時総会

(一社)日本船長協会 副会長 赤塚 宏一

 

はじめに

 臨時総会が9 月中旬にロンドンで開催され出席した。関西を襲った台風21号により関西空港は滑走路が冠水するなど大きな被害を受け、さらには諸兄も良くご存知のように3,881D/W の製品タンカーが走錨し空港連絡橋に衝突し、空港との交通を麻痺させた。 このため出張スケジュールは大幅な変更を余儀なくされた。
 この走錨海難については、運輸安全委員会の調査でその原因が明らかになると思うが、宝運丸の船長の判断と対応に問題があったとの感は拭えない。
 閑話休題

 

1.臨時総会

 今回の臨時総会は、4 月にブエノスアイレスで開催された総会において採択された決議案を改めて総会で批准するために開催されたものである。場所はこれまでにも紹介したロンドンのタワーヒルにあるTrinity House である。

参加したのはヨーロッパの多くの船長協会に加え、アルゼンチン、ブルガリア、インド、トルコそして日本である。さらに2 名の個人会員も審議に加わった。
 批准にかけられたのは次の5 議案である。 いずれも定款及び規則を改正するものである。採択された決議については本誌第445号平成30年6 ・7 月号に書いたところであるが、参考のために書いておく。

(1) 1号議案 決議44/01号
 副会長の定員を現在の7 名から10名に増員する件
 IFSMA は残念ながら理事会メンバーすなわち役員以外は何かと情報の交換に支障があり、またブエノスアイレス総会での選挙では落選したがトルコやインド、ブルガリアなどからも副会長に立候補があり、このため副会長の定員を7 名から一挙に10名とする案が会長から示されて基本的に合意されたものである。

(2) 2 号議案 決議44/02( 1 )
 Full Time の事務局長を雇用する件
現在の事務局長Commodore Jim Scorerの後任の事務局長としてこれまでのようなボランティアを期待するのは非現実的であり、また副事務局長のCapt Paul Owen も夫人が最近2 度も心臓発作で入院しており、これまでのような業務を期待出来なくなったところから、フルタイムの事務局長を採用することに合意したものである。

(3) 3 号議案 決議44/02( 2 )
 会費の値上げ及び経費の節減案
FullTime の事務局長を雇用するのには現在のIFSMA の年会費収入では到底賄えるものではなく値上げ案を提出したものである。現在の£12/ 会員から£15/ 会員とすることに合意した。また各協会のミニマムの会費は£1,000とすることとなった。このため申告会員数が66人以下の協会は一律に£ 1 ,000となる。個人会費も£60から£75になる予定である。一方経費節減案では総会を今後2 年おきに開催すること、事務所の移転(後述)である。

(4) 4 号議案 決議44/03
 投票権の見直し
 これは各国協会の申告会員数に応じて、投票権が決められているが、これをよりきめ細かく規定し、各国協会が申告会員数を増やすことを後押しするためでもある。結果的に多くの協会は投票権が増えるこことなる。

(5) 5 号議案 決議44/04
 投票権の見直し
 役員選挙にあたり立候補者は選挙予定日の30日前までに届け出ること。
 これは定款及び規則に規定がなかったため、明文化したものである。

(6) 審議経過
 投票に先立ち、各項目に対する説明がなされ、質疑応答が交わされた。その多くは会費の値上げについてである。ブエノスアイレス総会を欠席したベルギー船長協会からは改めて値上げの必然性について質問があった。
 これに対し事務局長のJim から丁寧な説明があった。すなわち船長及び船員は歴史始まって以来の大変換期に直面している。すなわち自律運航船である。船長及び船員の存在そのものを否定する動きであるともいえる。この自律運航船については、IMO は言うに及ばず多方面で多くの委員会が検討を始めている。技術的な問題も当然あるが、何よりも法的問題である。ここでしっかりと船長の立場を踏まえて審議に参加し、行く末を見極めなければ大きな禍根を残すことになる。また自律運航船に限らず、IMO の審議だけでも年間24週間もあり、いろんな形で船長にかかわる審議が行われる。こうした会議に積極的に関わるには、これまでのパートタイマーやボランティア頼りでは立ち行かないとの説明である。

 投票は無記名で日本船長協会は申告会員数が300人であるところから現規定では2 票である。投票後、直ちに開票され、結果はいずれの議案もほぼ90% 以上の賛成で可決された。
 この結果、1 号議案の副会長3 名増員については来年9 月にニューデリーで行われる総会において選挙が行われ選任される。増員された3 名の任期は2013年までの4 年間となる。
 3 号議案の会費の値上げは日本船長協会の場合、申告会員数は300名であるから£12×300人= £ 3 ,600( 約\540,000) から£15×300人= £4,500(約\675,000)となり、現在の為替レートで約\135,000の負担増となるが、会員諸兄のご理解をお願いしたい。英国がEU 離脱を決めて直ぐにポンドが15~20%下落したし、離脱後はさらに下落すると予想されているところ、会費値上げとoffset になればと望んでいる。
 4 号議案の投票権の見直しで当協会はこれまでの2 票から3 票となった。投票が行われるのは、今回のような定款と規則の改正の時と役員選挙であるが、副会長の定員も10名となれば日本船長協会の候補者が落選するとは考えにくくなったが、投票権の重みも無くなったともいえる。
 5 号議案は選挙に関する規定の不備を修正 するものである。

 さて、2 号議案の事務局長の雇用であるが、これについては来年5 月以降に募集を始めたいとの意向が現在の事務局長のJim から表明された。これは今回の値上げに関連して退会する協会があるのではないかとの懸念である。何とも切ない話であるが、これまでミニマムの30名の申告会員数であった協会は年会費が£360で済んだものが、一挙に£1,000となり2.8倍になるからである。IFSMA の会計年度は1 月1 日より始まり、会費の請求は毎年1 月1 日を以って行い、3 月31日までに納入することとなっている。事務局長は会費の納入状況を見ながら新しい事務局長を募集しようというわけである。今回の値上げは単純には£15÷ £12=1.25と25% の値上げであるが、現在の状況で試算すると収入は2018年の£96、050から£118、528、すなわち£22,478増加するだけである。これでは諸経費を入れて最低7 万ポンドのFull Time の事務局長を雇うのが精一杯である。もし、値上げの結果、退会する協会がでればFull Time の事務局長を雇用するのは困難で、これまでのようにPart Time とならざるを得ない。
 なんとも寂しい話であるが、これが今の国際船長協会連盟の現状であり、ひいては船長の現実なのであろうか。海運先進国の船員・船長が減少するにともない、国際船長協会連盟の会員も減少を続けている。
 しかし、明るい話もある。今年加入を表明した台湾船長協会もインドネシア船長協会も会費を納入し正式な会員となった。またウクライナ船長協会も再加入することとなった。韓国では今年の7 月にKorea Shipmaster’Committee を設立したとの連絡があり、これをIFSMA に勧誘すべくあらためて事務局からアプローチすることとなった。

 

2.第1 回国際船長大会及び2019年度総会

 2019年の総会と第1 回国際船長大会を来年9 月にインドのニューデリーで開催することは今年のブエノスアイレス総会で決定済であ る。

そのための初めての打合せが臨時総会及 び理事会の後に行われた。場所はIFSMA の新しい事務所となったIMarEST(Institute o f M a r i n e E n g i n e e r i n g , S c i e n c e & Technology 海洋工学科学技術学会)のビルである。
 IMa r E S T は1889年設立の海洋工学学会(IMarE: Institute of Marine Engineers)に海洋科学者、技術者が合流し、2001年に設立された国際的な専門職・学術団体である。IMarEST の本部の壁には船の模型や写真が多く飾られ、このIMarEST がもともと舶用機関の学会として発展してきたことを物語っている。最近は海事教育(機関系)の評価などにも力を入れている。
 日本には日本マリンエンンジニアリング学会という公益社団法人の学会があり、日本の主な造船所、舶用メーカー、船社、大学その他関係118団体が維持会員となり個人の正会員は2050名余だそうだが、この学会がIMarEST と交流があるようだ。

 IFSMA がIMarEST に移ったのは経費の節減のためである。これまで長年事務所のあったIMO 近くのMarine Society は大規模改修を行うとともに家賃を一挙に2 倍に値上げするとの通告を受け、やむを得ず移転したものである。

M a r i n e society には有力な海技者団体であるNautical Institute も本部を置いており、またMarineSociety の充実した図書館も利用可能であっただけに少々残念ではある。
 IMarEST はロンドンの中心セント・ジェームス・パークの南東角にある。外観は荘厳なジョージアン風のビルであるが、中は近代的なというより現代的なビルである。IMarEST にはロンドン在任中に日本からの調査団と一緒に2 度ほど昔の事務所を訪問した記憶があるが、3 階にあるIFSMA の事務所に案内されて驚いた。8 畳程度の部屋に机が向かい合わせに6 個ならびその一つのテーブルがIFSMA のスペースだという。しかしフロアのあちこちにはミーティング用のテーブルやソファなどが置いてあり、また会議室もいくつかあり、いずれもパソコンの電源などが整備され、日常の執務に何の支障もないという。IFSMA の事務局員は局長と副局長の二人だが、基本的には二人ともパートタイマーで、また局長はIMOを始め外の会議に出ることが多く、机一つでも差し支えないし、必要であれば会議室をつかうのだそうだ。このオフィス・スペースの使用料が年間1 万ポンド(約150万円)で光熱費等その他の費用は一切かからないという。書類の殆どが電子媒体で保管されるこれからの事務所の一つのあり方かもしれない。それにしてもこれまでのような紙媒体の雑誌、参考書、資料はどうなったのであろう。

 さて、肝心の打ち合わせであるが、国際船長大会及び総会のホストとなるT h eCompany of Master Mariners of India(CMMI:インド船長協会)の説明と質疑応答を主として行われた。しかし未だに開催場所はニューデリーではなく、港湾都市・海運都市であるムンバイにした方が参加者もスポンサーも多くなるのではないかなどと議論が蒸し返されてまことに前途多難である。
 議論されたのは大会の準備状況、大会及び総会の費用の見積もり、収入源、参加費用、将来の国際船長大会のあり方を見据えた今後の委員会の活動などである。
 大会費用を賄う方法としては、財団等からの寄付、スポンサーシップ、会議場に展示スペースを設け舶用機器メーカーやシステム・プロバイダー等からの出展料、さらに大会参加者の参加料などが見込まれる。しかし個人の参加者がなるべく多くなるように参加料は極力押さえるとともに発展途上国からの参加者に対しては割引をしたいとしている。
 第1 回国際船長大会のテーマは、“FUTURE SKILLS REQUIRMENTS FORA DIGITIZED SHIPPING INDUSTRIES”~デジタル化される海運産業に必要とされる将来の技量~とまことに時宜を得たものである。大会のプログラムやプレゼン用の論文の審査などはIFSMA 会長代理でブレーメン工科大学准教授のCAPT.W.WITTIG を委員長とする委員会が所管する。また大会の最終日にはパネルディスカッションを行い、そこでの議論を取りまとめ、海運産業、港湾、教育界、海事関連諸官庁などへ提言する予定である。日本からもぜひ積極的に参加して欲しいと 願っている。

 

3.BREXIT 英国の欧州離脱

 この原稿を書いている時点で英国がEU を離脱するまでにちょうど6 ヶ月となった。BREXIT がIFSMA の運営に直接影響することはないであろうが、海運や港湾は影響があるとされているし、船員については海技証書の相互承認や配乗規則に影響がでるであろう。
 一昨年の国民投票の結果、英国民はBREXIT を選択したのだが、これを受けて英国通貨のポンドはただちに15% 程度下落した。もし英国がEU との間に合意なく離脱するようなことがあれば、さらにポンドは下落するのではないかと思われる。ささやかながら英国の年金を頂いている身としてはポンドの動向に関心はあるし、またIFSMA の会費はポンド建てなので日本船長協会への影響もある。
 英国民のBREXIT 選択は最悪であったと思うが、さらに何らの合意なき離脱の可能性も浮上したこの頃、ぜひ英国人の反応を直に聞いて見たいと思った。しかし筆者のコンタクト出来るのはIFSMA 関係者等と極めて限定されているし、多くの人はBREXIT について困惑し、彼等もこの先どのような展開になるのか全く分からないという。そして異口同音に懸念しているのは「合意なき離脱」で あった。
 「合意なき離脱」となればその影響は市民生活にも直ちに多くの影響を及ぼすが、そのもっとも具体的な形としてはまずは欧州各国との往来であるという。航空機はいわゆるオープン・スカイ協定によって、行政による規制が殆ど無くなり航空会社の裁量による運航が可能となるが、離脱後は改めて各国と順次協定を締結する必要があり、その間は航空便に大きな混乱が予想されるという。これは長距離バスにも同様でバス旅行も大きな制限を受けることになる。これはビジネスにはもちろん外地ホリディの好きな英国人には大きな問題であろう。
 ロンドン滞在中にEU 非公式首脳会議がオーストリアのザルツブルクで開催され、英国のEU 離脱が協議された。離脱交渉の合意は先送りし、EU 側は英国に対し、10月中に「最大限の交渉進捗」を求めたため、結果的には合意なしでの無秩序な離脱がさらに現実的な様相を帯びてきたという。
 このEU 非公式首脳会議を報じた英国の新聞、The Times などは首脳会議の合間のスナップ・ショットの中から英国のメイ首相が他のEU 首脳たちと離れて歩き、いかにも彼女一人が孤立しているかような写真をことさら一面に掲載し、英国の孤立無援ぶりを強調していた。
 EU 側が問題としているのは英領北アイルランドの国境問題や「モノの自由貿易圏」の創設なのだそうだが、英国提案は移民制限の導入を含むなど、いずれもEU 側にとっては英国の「いいとこ取り」と見なされて、合意は容易ではない。
 国民投票によるEU 離脱の是非については、賛成票を投じた有権者のかなりの数が、本心から離脱を望んだのではなく、時のキャメロン政権への牽制として行ったとも言う。今また野党である労働党を中心に再度の国民投票を実施しようという機運もあるという。来年3 月までに再度国民投票が実施されるとは到底考えられないが、かといって「合意なき離脱」に突き進むことはないだろうと思う。アメリカのトランプ大統領とは違って、EU 首脳も英国政府もいずれも老練かつしたたかな政治家だからであるし、彼らの知性を信じたいからである。

 

 

 


LastUpDate: 2018-Nov-22